2021年度後期 第1回 細胞生物学セミナー

日時:1012 () 16:30~ 場所:ZOOM開催

RSAtrace3D: robust vectorization software for measuring monocot root system architecture

Teramoto, S., Tanabata T., Uga, Y.  (2021)

BMC Plant Biol. 21:398

RSAtrace3D:単子葉類の根系構造測定のための頑丈なベクトル化ソフトウェア

土壌中の根の分布は植物の水分や栄養分の取り込み能力を決定し, 全体の収量にも大きく影響する. 根の構造や広がりを十分に表現するためには三次元的な情報が必要であり, 近年CT, MRIなどの三次元画像処理装置を用いた根系構造の三次元表現が可能になった. 根のベクトル化 (隣接する根のボクセルをつなげて根の形状を表すパスを作成する) は根系構造の表現方法の一つであり, 形態解析や根の成長角度の計算が可能である. しかし, 従来のベクトル化アルゴリズムは三次元データのノイズの影響を受けやすいという問題がある. 一般に, 三次元データのノイズは撮影範囲と撮影速度が大きくなるにつれて増大する. 筆者らは先行研究においてハイスループットな根系構造の可視化法RSAvis3Dを開発したが, こうした高速な撮影を前提とした方法ではノイズの多いデータを処理する必要がある. 本研究では, RSAvis3Dで可視化した単子葉植物の根系構造を測定するための頑丈なベクトル化ソフトウェアRSAtrace3Dを開発し, その測定精度を検証した. RSAtrace3Dはセグメンテーションされた三次元データに根の位置を示すいくつかのノードを登録し, その間を自動的に補間することで根の構造をベクトル化する. ベクトル化の方法は「直線」, 「スプライン」, COG (center of gravity) トラッキング」の3種類がある. 最終的に, ベクトル化されたデータから形態的なパラメータを自動で計算する. まず, 3つの方法でベクトル化したデータを比較した. 植物材料にはイネ (Oryza sativa L.) ssp. tropical japonicaの栽培品種Kinandang Patong (KP)を用いた. 播種後26日目の根をXCT撮影したデータをRSAvis3Dで処理し根を分離した. RSAtrace3Dの各方法でベクトル化した結果を比較すると, COGトラッキングは他に比べて細かい部分で忠実にトレースできていた. ベクトル化までに必要なクリック数と時間を比較すると, COGトラッキングは直線やスプラインに比べてクリック数, 時間ともに50%少なく, 1サンプルを約10分で処理した. よって, COGトラッキングが最も正確で労力を要さない方法である. 次に, 測定精度を比較するために, RSAtrace3Dによる計算結果と手作業による計測を比較した. 植物材料には3つのイネの系統ssp. indicaIR64 (浅根性), ssp. indicaKPの持つ深根性遺伝子DRO-1を導入した準同質遺伝子系統Dro1-NIL, KP (深根性)を用いた. 土壌を除いても根系の構造を保持することができるワイヤーバスケットを埋めたポットに種子を播種し, 4週間後にXCT撮影を行った. CT画像をRSAvis3Dで処理し, RSAtrace3Dでベクトル化し形態パラメータを計算した. 撮影後のポットからワイヤーバスケットごと根系を取り出し, 手作業による根の伸長角度の測定を行った後, 根を集めて二次元スキャンしソフトウェアSmartRootで根長を測定した. 測定結果を比較すると, 成長角度では3系統で高い正の相関が見られた (r = 0.985). 手動とRSAtrace3Dとの相対的な増減率RPD (Relative percent difference) の分散は, 浅い角度の領域で大きくなった. これは角度が小さくなるにつれて単位誤差の影響が大きくなるためである. 根長では3系統で正の相関が見られたが, (r = 0.766) 手動と比較してRSAtrace3Dの方が全ての場合で高い値を示した. 手動とRSAtrace3D3つのベクトル化手法との間のRPDをそれぞれ計算すると, その中央値は直線とスプラインで約0%, COGトラッキングは約10%だった. この違いはRSAtrace3Dが三次元の波状の根を正確にトレースしたことによるものである. 直線とスプラインでは根長を過小評価しており, 同様に二次元スキャナでも三次元の波打つ根の長さを過小評価してしまうことから, COGトラッキングはこうした三次的に波打つ根を測定する際に最も信頼できる方法である. 次に, 3系統の根の形態パラメータを定量評価した. 3系統のイネを2ヶ月栽培し, XCT撮影を行い, 根をベクトル化した. 撮影後の土壌から根を集めソフトウェアWinRHIZO™ Pro 2017aを用いて総根長を測定した. 測定後の根をオーブンで乾燥させ, 乾燥重量を測定した. 形態パラメータとして根の成長角度, 総根長, 根の深さの指標であるRDI (root distribution index)を比較すると, 成長角度は3系統で異なっていたが, 根長に有意差は見られなかった. 成長角度とRDIの間には高い正の相関があり, RDIが根の成長角度に依存していることが分かった. また, RSAtrace3Dで計算した根長とWinRHIZOで測定した根長は相関しなかった. RSAvis3Dでは直径20 cmのポット中の直径18 cmの円筒形の領域のみを可視化しており, ポットの内壁に接する根は除外している. RSAtrace3Dでの根長は乾燥重量と高い相関があり, 可視化されていない周辺領域による根全体の乾燥重量への影響は小さいことが示唆された. 本研究で開発したRSAtrace3DRSAvis3Dと組み合わせたハイスループットな根系解析において有用である. 根系のベクトル化は高い拡張性を持つためXCTデータ以外にも適用できるほか, ベクトル化した形式はデータ量が小さく研究者間でのデータ共有や再解析が容易となり, 様々な単子葉類での根系構造研究の促進に寄与できると考えられる.

興味を持たれた方はご参加ください (zoom URL をお知らせします). 山浦遼平