2021年度後期 第8回 細胞生物学セミナー

日時:119 () 16:30~ 場所:ZOOM開催

An improved method for the segmentation of roots from X-ray computed tomography 3D images: Rootine v.2

Phalempin, M., Lippold, E., Vetterlein, D., Schlüter S. (2021)

Plant Methods 17:39

Rootine v.2X線コンピュータトモグラフィー三次元画像からの根のセグメンテーション手法の改良版

X線コンピュータトモグラフィー(CT)は土壌中で成長する植物の根系構造を研究するための有用な手段であることが知られている.根系構造の研究ではXCTで得られるグレースケール画像から根とそれ以外の部分を分別して二値化する作業(根のセグメンテーション)が必須である.しかし,データの解像度やノイズ,根と土壌とのコントラストなどの条件によってはセグメンテーションが困難なケースも多く,それを解決するための様々な方法が近年提唱されている.著者らは先行研究において,根の管状の形状を判断基準として取り入れた半自動セグメンテーション法Rootine v.1を開発した.この手法はセグメンテーション精度や土壌とのコントラストが低い部分での根の認識において従来法よりも優れていたが,大部分のパラメータは使用者による調整に依存し,その一部は非経験者にとって解釈が難しいことが問題だった.本研究ではこれらの問題を目指し,セグメンテーション精度とユーザビリティが向上した改良版の方法「Rootine v.2」を新たに開発した.本手法は画像解析ソフトImageJ上で動作し,画像取得,前処理,根のセグメンテーション,後処理,解析の5段階から成る.先行研究からの主な改善点として以下の機能を備えている.(@)ポットの壁面に沿って伸びる根でのアーティファクトの原因となるポット壁の検知と除去,(A)ヒストグラム解析による根の平均的な画素値の計算,(B)形状判断でのヒステリシス閾値処理のパラメータの自動計算,(C)形状判断で生じる偽陰性(根の見逃し)の復元.本手法の性能を検証するため,Rootine v.2と従来版のv.1CT像から根長と根の直径を計算し,それぞれの計算値を二次元スキャナでの測定値と比較した.植物材料はトウモロコシ(Zea mays L. 'B73')を用いた.深さ23 cm内径7 cmのポットにシルト・ロームを満たし,種子を一粒ずつ播種し明期12 h暗期12 hのインキュベーター内で21日間栽培した.栽培後,XCT撮影をポットの上下2回に分けて行い,得られたCT像からRootine v.1またはv.2により根長を測定した.CT撮影後,ポットから土壌カラムを取り出し6層に切り分け,層ごとに篩を用いて根を回収した,回収した根は二次元スキャナでスキャンし, Win Rhizo Ver. 2019bで根長と根の直径を計測した.実験はCT画像のSN比(信号雑音比:値が大きいほど信号が強くノイズが弱い)が大きい“最適条件”と,意図的に土壌の不均一性を高めSN比を小さくした“不適条件”の2条件で行った.その結果,不適条件においてRootine v.1で求めた総根長はスキャナ計測の29%だったのに対し,v.2では73%だった.決定係数R2v.10.76v.20.79でおおよそ同じだった.セグメンテーション後の画像のZ軸方向への投影像を比較すると,Rootine v.2での根の繋がりは比較的滑らかで過度なセグメンテーションは少なかった.v.2v.1よりも直径180 µm以下の細い根を多く検出していることが定性的に確認され,v.2での総根長の増加はこれらによって引き起こされたことが示唆された.根の直径では,細い根だけでなく直径900 µm以上の太い根でもv.2v.1よりも二次元スキャナでの計測値に近い値を示した.最適条件においてはRootine v.1で求めた総根長は二次元スキャナ計測の99%v.2114%だった.決定係数R2v.10.92v.20.90でおおよそ同じだった.Z軸方向への投影像は不適条件と同様の傾向で,v.2での細い根の検出が総根長の増加に寄与していることが示唆された.根の直径の計測精度はどちらの方法でも同じく優れていた.不適条件において総根長がスキャナ計測の値に近づいたことから,Rootine v.2v.1では見逃された根の部分の復元の点で従来版よりも優れていることが実証された.本研究の目的の一つであるパラメータの削減では,v.1でパラメータが12個あったのに対し,v.2では10個に削減された.1サンプルあたりの処理時間ではv.13.8 hに対し,v.26.8 hを要した.v.2v.1よりも低速化したものの,ブラックボックス化したパラメータが減ったことでユーザビリティは向上しており,パラメータの調整時間が節約可能である.必要なパラメータを決定すればマクロを使用してさらに処理時間を高速化できると考えられ,本手法は効率的な根系の形態解析に寄与することができると考えられる.

興味を持たれた方はご参加ください (zoom URL をお知らせします). 山浦遼平