2021年度後期 11 細胞生物学セミナー

日時:127日(火)16:30〜 場所:Zoom

Novel hypergravity treatment enhances root phenotype and positively influences physio-biochemical parameters in bread wheat (Triticum aestivum L.)

Swamy, K. B., Hosamani, R., Sathasivam, M., Chandrashekhar, S. S., Reddy, G. U., & Moger, N. (2021)

Sci Rep.11:15303

過重力処理はパンコムギの根の表現型を向上させ、生物生理的パラメーターにポジティブな影響を与える

 

  過重力は進化的に新しい環境であり,過重力は地球外への応用という観点から,植物を含む生物の重力応答を解明するために活用されてきた.これまでに過重力処理による発芽率や苗の活力の有意な増加(Santons et al., 2012),ヒメツリガネゴケにおける葉緑体サイズの増加(Takemura et al., 2017)などが報告されている.そして近年,過重力は種子の有用な表現型多様性を誘導することが示された.しかし,これらの研究の多くは焦点が狭く,苗の段階のみに限定しており,作物の改良の可能性という観点から,温室条件での詳細な研究はこれまで試されていなかった.そこで本研究では,地上の作物の改良に貢献可能な信頼性の高い表現型を誘導する新たなツールとして,過重力の有用性を評価した.

植物材料はパンコムギの種子(UAS-375 genotype)を用いた.まず初めに,種子をさまざまな強度の重力(2510202550100 g12 h)に暴露し,有用な表現型を誘発する最適な重力強度を探索した.過重力処理の結果,10 gにおいて根長とシュート長の表現型に最も高い応答が見られたことから,最適な重力強度を10 gに設定した.次に最適な処理期間を決めるため,10 gの固定強度で,122436486072 hに分けて処理期間を評価した.その結果,根長およびシュート長を増加させる過重力処理期間は,12および24 hであることが分かった。これらの結果から、本研究における最適な過重力強度と処理期間をそれぞれ10 g12および24 hとした.

次に,コムギ種子に対して過重力処理(10 g12および24 h)を行い,実験室条件と温室条件の両方で苗の活力(根長およびシュート長)とその他の生長パラメーターをさまざまな生長段階(苗,中間栄養生長期,生殖生長期)に沿って評価した.その結果,いずれの生長段階においても,過重力処理(10 g12および24 h)により,根長,根系体積および根のバイオマスが有意に増加することが分かった.なお,シュート系に関連するパラメーターについては,苗の段階でのみ有意な増加が見られた.

また,苗の活力が過重力処理により著しく向上したため,過重力処理後の種子におけるアミラーゼ活性,total dehydrogenaseTDH)活性,タンパク質プロファイルなどの生化学的基盤を調査した.その結果、12 h10 g処理を施した種子において,α-アミラーゼ活性およびTDH活性の有意な上昇が見られた.種子の過重力処理によって苗の生長が旺盛になるのは,α-アミラーゼとTDH酵素活性の増加に起因していると考えられる.また過重力環境下では,総クロロフィル量とRubiscoタンパク質(55 kDa)の発現量が増加しており,これはコムギの生長に関わる生理的利点を与えている可能性がある.さらに,根における内在性植物ホルモン量を定量したところ,過重力処理によりインドール-3-酢酸(IAA)やインドール-3-酪酸(IBA)などの増加,アブシシン酸(ABA)の減少などが見られた. このことから,過重力環境下では,根において内在性植物ホルモン動態が活発になり,表現型が変化する可能性が考えられる.

以上のことから,本研究では,信頼性の高い根の表現型を誘導する新たなツールとしての過重力の有用性を初めて明らかにした.また,根の長さ,体積,バイオマスの増加といった過重力により誘発された表現型は,水利用管理を改善するための品種改良に利用できる可能性がある.

興味を持たれた方は是非ご参加ください(zoomURLをお知らせします).小出みなみ