2021年度後期 第16回 細胞生物学セミナー
日時:1月25日(火) 17:00〜 場所:Zoom
IQ67 DOMAIN proteins facilitate preprophase
band formation and division-plane orientation
Kumari, P., Dahiya, P., Livanos,
P., Zergiebel, L., Kölling,
M., Poeschl,
Y., Stamm, G.,
Hermann, A., Abel, S., Müller, S., Bürstenbinder, K.
(2021)
Nature plants: 10.1038/s41477-021-00923-z
I Q67ドメインタンパク質は分裂準備帯の形成と分裂面方向づけを促進する
細胞分裂の時空間制御は,多細胞生物の成長と発生に重要である.植物細胞において細胞質分裂の際に適切に細胞板を挿入するためには,有糸分裂前に細胞表層で分裂面が確立される必要があり,2つの植物特異的な細胞骨格配列である分裂準備帯(PPB)とフラグモプラストは,それぞれ分裂面の方向性と細胞板形成において重要な役割を果たしている.IQ67ドメイン(IQD)タンパク質は,複数の植物種において,未知のメカニズムで細胞分裂や細胞伸長を制御し,植物の成長を決定する重要な因子として働く植物に特異的なタンパク質である.シロイヌナズナのIQDタンパク質は,表層微小管上に存在し,間期細胞では細胞膜の近くに局在し,膜の繋ぎ止めや微小管の細胞骨格の形成に機能していることが提唱されている.しかし,それらの正確な役割は謎のままである.
筆者らはシロイヌナズナのIQDファミリーであるIQD6, IQD7, IQD8を同定し,それらを欠損させた変異体を作成した.根の先端を顕微鏡観察したところ,野生型に比べてiqd8変異体では,主に外側の組織層で斜めになった細胞壁の頻度が増加した.さらにiqd8とiqd6およびiqd7を組み合わせた二重および三重変異体では,表皮における斜めの細胞壁の割合が増加した.また,iqd8およびiqd678変異体の表現型が分裂期の微小管配列の欠陥と関連しているかどうかを調べるために,ライブイメージングによって細胞分裂中の微小管の構成を調べた.その結果,iqd678変異体では,20%の細胞でPPBの幅が減少し,50%の細胞で完全に消失していることがわかった.さらに,iqd678変異体では,フラグモプラストの位置やPPBの幅や位置がより変化していた.
次に,物理的に相互作用するタンパク質を同定するため,Y2H法を用いてIQD8結合タンパク質をスクリーニングした.その結果,POK1, POK2, PHGAP1, PHGAP2と強い相互作用があることが明らかとなった.POKは,細胞分裂部位のマーカーであり,前期にはPPBに局在し,分裂期を通して表層分裂面挿入予定域(CDZ)に残ることが知られている.POKは,そのC末端を介した物理的な相互作用により,他のCDZ常在タンパク質(PHGAPなど)のリクルートと保持に不可欠である.そこで筆者らは,IQDがPOKやPHGAPのPPBへの局在に必要なのか,あるいは逆に,IQD8のPPBへの局在がPOKやPHGAPに依存しているのかを調べた.その結果,PPBを欠損したiqd678変異体では,細胞分裂の初期段階でYFP-POK1の分裂面へのリクルートが阻害された.終期では,野生型及びiqd678変異体でYFP-POK1はCDZに表層に局在したことから,PPBがない場合は表層のターゲティングが遅れることが示された.CDZへのPHGAP2のリクルートは著しく減少し,iqd678変異体では分裂細胞の約25%で完全に消失した.また,pok1pok2変異体およびphgap1phgap2変異体でPOKとPHGAPをそれぞれ失っても,IQD8-GFPの局在には影響がなかった.
以上の結果から,IQDタンパク質の機能が失われると,PPBの形成が損なわれ,POKとPHGAPのCDZへのリクルートに影響を与えることで,分裂面の位置に異常が生じることが明らかになった.筆者らは,IQDタンパク質が足場となり,対称的な細胞分裂の際にPPBの形成とCDZの確立を促進することを提唱する.
興味を持たれた方は唐原先生か玉置先生にご連絡ください.ZoomのURLをお伝えします.
飯塚駿作