2021年度後期 第3回 細胞生物学セミナー

日時:101916:30〜 場所:オンラインZOOM開催

 

Mars Regolith Simulant Ameliorated by Compost as In Situ Cultivation Substrate Improves Lettuce Growth and Nutritional Aspects

Duri, L. G., El-Nakhel, C., Caporale, A. G., Ciriello, M., Graziani, G., Pannico, A., Palladino, M., Ritieni,

A., De Pascale,.S., Vingiani, S. (2020)

Plants, 9:628

<現地で生産された栽培基質の堆肥によって改善された火星レゴリスはレタスの成長と栄養面を向上さ

せる>

将来の火星へのシャトルによる旅では重いペイロードが制限要因となるため、将来のコロニーでは自給自足が不可欠になる。したがって、その場での資源利用が宇宙旅行を実現可能なものにする鍵である。今回の研究では火星レゴリス模擬物質に葉菜を植え、その場で生産された有機物の残渣を加えることで、この基質の肥沃度を向上させることを目的とした。この目的のため、バターヘッドレタス(Lactuca sativa L. var. capitata)の2品種(緑と赤のSaranova®)をフィトトロンの開放型ガス交換式のグロースチャンバーの中でMMS(Mojave Mars simulant)-1と堆肥を4種類の割合(010030707030100:0(vv)で混合したもので栽培し、堆肥の割合が作物の生産性と栄養価の両方に与える影響を評価した。

 その結果、生重量, 光合成速度 (Net COassimilation rate: Aco)、潜在的水利用効率(intrinsic Water Use Efficiency:WUEi) については、両品種において30:70の割合で混合した場合で最も高くなった。レタスの生産性、光合成速度、内在性水利用効率の点で30:70が最適な混合基質であることがわかった。総ポリフェノール含量については、緑品種では混合割合による違いは見られず、赤品種では堆肥が高いほど含量の増加が確認された。総アスコルビン酸含量については、赤品種では堆肥割合に一定の傾向は見られず、緑品種では30:70で最も低くなった。品種による違いとしては、赤品種では緑品種と比べて収穫量、光合成活性、総ポリフェノール含量に、総アスコルビン酸含量の値が高かった。また、模擬物質100%で栽培した場合は、堆肥100%の場合と比較して、ポリフェノール化合物含有量が32%低下した。100%模擬基質での栽培も可能であったが、生重量は赤品種で約20%減少し、アスコルビン酸を除き、NO₃、PO₄、K、およびポリフェノール化合物の含量がシュートで減少した。宇宙農業の限られた資源である堆肥の持続的な利用を考慮すると、30:70の混合物と比較して、収量と品質がやや低下するものの、70:30の混合は、より現実的なシナリオであろう。

 今回、火星のレゴリスの栽培基質としての有用性が示されたことは、宇宙開発に貢献する。

また、宇宙での栽培で発生する有機物の残渣を利用して、この基質の肥沃度を高めることの重要性を示している。しかし、今後追加的な負荷を軽減するためには、工業生産した肥料による追肥を行わず、現場で得られる有機肥料のみに頼った栽培に関する今後の研究が重要である。さらに、簡便に処理された人間の排泄物からの有機物をテストすることは有用である。

(興味持たれた方はご参加ください。ZOOMURLをお知らせします。 田中 蓮)