2022年度前期 7 細胞生物学セミナー

日時:75日(火)16:30〜 場所:オンラインZOOM開催

Apoplastic lipid barriers regulated by conserved homeobox transcription factors extend seed longevity in multiple plant species

Renard, J., Almonacid, I, M., Queralta Castillo, I., Sonntag, A., Hashim, A., Bissoli, G., Campos, L., Bertomeu, J, M., Ninoles, R., Roach, T., Leon, S, S., Ozuna, C, V., Gadea, J., Lison, P., Kranner, I., Barro, F., Serrano, R., Molina, I., Bueso, E.2021

New Phytol., 231:679-694

保存されたホメオボックス転写因子によって制御されるアポプラストバリアは、

複数の植物種で種子の寿命を延ばす

 

クチンとスベリンは,特定のアポプラスト領域に沈着した脂質ポリエステルである.それらは,気体,水,溶質の移動の制御や,病原菌に対する抵抗性付与など,植物生物学において基本的な役割を担っている,クチンとスベリンはともにシロイヌナズナの種皮に存在し,種子の休眠と寿命を制御することが明らかにされている.シロイヌナズナHOMEOBOX25AtHB25)は、シロイヌナズナ種皮の構造変化を仲介して種子の寿命を制御する転写因子として報告されている.AtHB25を過剰発現した植物において,この種子老化に対する抵抗性を付与する化合物や,どの遺伝子がこの転写因子によって直接制御されているのかについては明らかになっていない.本研究では,老化促進処理,グルタチオンレドックス電位測定,光学および透過型電子顕微鏡,ガスクロマトグラフ質量分析法を用いて,種皮中の脂質ポリエステルの蓄積量の増加がAtHB25転写因子の種子透過性と寿命の制御機構であることを証明した.植物材料にはシロイヌナズナ(Arabidopsis thalianaL.Heynh.)を用いた.AtHB25による種子老化の制御が酸素の透過性や酸素暴露の有害作用に依存するか否かを調べるために,種子を5ヶ月間高圧酸素貯蔵した結果,AtHB25過剰発現株であるathb25-1Dは野生型(WT)対照より50%高い発芽率を示す耐性を示したが,athb22 athb25二重変異体はこの処理に敏感で,種子が発芽しなかった.これらの変異体の種皮透過性を定量化するために,トリフェニルテトラゾリウム還元法を用いてテトラゾリウム塩の取り込みを測定した結果, athb22 athb25二重変異体では種皮の透過性が高まっていることが示唆された.脂質の染色強度の変化や電子顕微鏡で観察される形態が組成の変化と相関しているか否かを調べるために,種皮脂質ポリエステルの化学分析を実施した.抽出した脂質ポリエステルモノマーをガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で分析し,同定されたモノマーの総量をモノマークラスに従ってグループ化し合計すると,野生型種子と比較してathb25-1D種子では20%増加,athb22 athb25種子では40%減少しており,AtHB25は種皮における脂質ポリエステルの蓄積を制御していることが示唆された.LACS2NHO1は,脂質ポリエステルの生合成酵素をコードする遺伝子であり,AtHB25の直接的な標的である.これらの変異がathb25-1Dバックグラウンドに与える影響を知るために,遺伝的交配を行い、それらの系統に対して老化促進処理を実施した.その結果,両変異(lacs2およびnho1)はathb25-1Dの種子老化に対する抵抗性を低下させることがわかった.AtHB25が脂質ポリエステル生合成遺伝子の発現制御を通じて種子を長持ちさせる植物種を超えた制御因子であるかどうかを調べるために,AtHB25でパンコムギ品種(THA53)を形質転換させた.老化促進処理後,AtHB25を発現するTHA53の発芽率が大幅に上昇し,老化に対する顕著な抵抗性を示した.種子寿命におけるAtHB25の機能が双子葉作物種で保存されているか否かを調べるために,トマトでのAtHB25の機能を調べた.老化促進処理後の幼根出現試験から,AtHB25の過剰発現がトマト種子の寿命延長に寄与することが示された.これらの結果は,コムギやトマトなど,経済的に重要な作物種における重要な形質の改良に応用できる可能性がある.

 

興味を持たれた方は唐原先生か玉置先生にご連絡ください.zoomURLをお伝えします.

喜納南生