2022年度前期 第13回 細胞生物学セミナー

日時:726() 1700〜 場所:Zoom

From Spaceflight to Mars g-Levels: Adaptive Response of A. Thaliana Seedlings in a Reduced Gravity Environment Is Enhanced by Red-Light Photostimulation

Villacampa, A., Ciska, M., Manzano, A., Vandenbrink, J, P., Kiss, J, Z., Herranz, R., Medina, F, J.

Int. J. Mol. Sci. 22 : 899 (2021)

宇宙飛行から火星の重力レベルまで:赤色光刺激によるシロイヌナズナの芽生えの

低重力環境における適応反応の促進

 

 宇宙農業とも呼ばれる宇宙空間での植物栽培の実現は、植物が酸素や栄養分の供給、廃棄物のリサイクルなどを担う基本要素であることから、長期宇宙探査を可能にする生物再生型生命維持システムの開発にとって重要なステップである。これまでの研究で、植物は、微小重力環境下で細胞増殖速度やリボソーム生合成の変化など生理的な大きな変化が報告されているが、植物の微小重力環境に対する応答は未だに解明されていない。また、宇宙では重力ベクトルがないため、地球上では重力屈性によって覆い隠されていた新しい光屈性応答が観察される場合があり、実際、赤色光や青色光に対する根の正の光屈性応答が宇宙飛行の研究で報告されている。さらに、近年の火星への注目度の高まりを受けて、近傍惑星への人類の定住を可能にするために、0.1-0.4 G程度の比較的穏やかな低重力である部分重力あるいは低減重力が植物生理学に及ぼす影響についても調査する必要がある。本研究では、6日齢のシロイヌナズナを用いて、微小重力及び火星の重力に相当する部分重力に対する応答、並びに赤色光による光刺激の影響を分裂組織の成長と増殖を測定することによって調査した。これらの実験に加えて、異なる重力レベルで2日間曝露したシロイヌナズナを対象として、トランスクリプトームの変化を調査した。

 その結果、赤色光刺激により根の分裂組織のサイズ、核小体のサイズおよび核小体の微細構造の変化が増加し、微小重力と火星重力環境の両方において、細胞増殖にポジティブな効果をもたらすことが示唆された。一方で微小重力環境と部分重力環境が、それぞれ異なる応答を引き起こすことも実証された。微小重力環境では、暗所でも細胞増殖や成長を担うホルモン経路が活性化され、プラスチドやミトコンドリアがコードする転写産物がアップレギュレートされた。また、多くの非生物的ストレス要因に対する耐性の発現に必要な転写因子であるERFはダウンレギュレートされた。一方、火星重力では、プラスチドやミトコンドリアゲノムの発現変化が見られず、ミトコンドリア機能不全における重要なシグナル伝達分子であるANAC013Alternative Oxidase 1a (AOX1a)はアップレギュレートされた。また、ストレス因子に対する応答が活性化され、赤色光刺激が与えられたときのみ細胞増殖に関連するパラメータが回復した。この応答には、環境順化に関連するWRKY型転写因子などの多数の転写因子のアップレギュレーションが伴っていた。

 赤色光は、全ての重力レベルにおいて細胞増殖を増加させ、火星重力ではストレス応答を促すために必要である。長期的な応用として、部分重力と赤色光刺激の組み合わせは、宇宙農業において、微小重力で影響を受けると思われる経路の調節不全を回避し、芽生えの成長を強固にするために使用される可能性がある。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。ZoomURLをお伝えします。 田口 直哉