2022 年度前期 第 6 回 細胞生物学セミナー

日時:6 28 日(火)17:00〜 場所:Zoom

TopoRoot: a method for computing hierarchy and fine-grained traits of maize roots from 3D imaging

Zeng, D., Li, M., Jiang, N., Ju, Y., Schreiber, H., Chambers, E., Letscher, D., Ju, T. and Topp, CN.

(2021)

Plant Methods, 17:127

TopoRoot3次元画像からトウモロコシの根の階層性・細粒度形質を計算する方法

 

水分や養分の吸収、および植物体の土壌への固着といったはたらきを持つ植物根系は、その機能のほとんどが根系を構成する個々の根の形状や階層的関係性から定まる。このような根系構造の定量化は、根の形質の、遺伝的制御のされ方についての研究を前進させる第一歩であり、環境への被害を最小限に抑えながらの作物生産性向上に一役買うことだろう。従来これら根系構造についての研究は容易なものでは無かったが、3Dイメージング技術の発展により、近年ではコンピューターを用いて画像ベースでの根系構造定量化を行う取り組みが進んでいる。しかし、体積や深さ、凸多面体体積、総根長、根数といった全体的でおおまかな特徴を解析するためのツールは多く存在しているが、階層段階ごとの根数や分岐構造といった、個々の根についての形質情報を、詳細かつ正確に演算できるような手法は未だ数少ない。

 このような背景から開発された画像解析手法『TopoRoot』は、トポロジー単純化や3Dでのスケルトン化といったコンピュータグラフィックス界隈における最先端アルゴリズムに、トウモロコシの根系構造にあわせカスタマイズされた、分岐構造と階層情報を確実に取得するためのヒューリスティックを組み合わせ生み出されたものである。この手法は、単一の3次元画像から、根系階層全てについての情報と、それに関する厚さや根数、長さ、角度、屈曲度、各階層の子階層根数といった細かな形質情報を取得するものであり、同じく根の詳細形質情報を取得する既存手法DynamicRootsよりも、トポロジエラーへの対処力と、その階層推測に時系列情報を必要としない点で、利点を持つ手法である。

このような設計をされた結果として、掘り出した野外栽培トウモロコシ冠根についてのX線CTスキャン像45枚セットにおいて、TopoRootでは既存手法DynamicRootsと比較しての根数カウント精度向上が確認された。また、OpenSimRootsシミュレーションによる、年齢や複雑さ、ノイズレベルの異なるトウモロコシ根系合成画像495枚においても、粗視化および細視化した、厚さや根数、長さ、角度、屈曲度、子階層根数といった様々の形質について、TopoRootでは既存手法DynamicRootsや、同じく既存手法GiaRootsと比較しての、性質分析精度向上が確認された。手法の自動化と効率化が進められた本アルゴリズムにおいて、利用者は「画像ごとに3つの閾値設定を行う」という操作のみで、デスクトップ上でも解像度400^3の画像に対する数分での処理完了を実現できる。

最先端の方法を以て、3次元画像から、トウモロコシ冠根の詳細な性質を、より正確で包括的に取得する事を実現する本手法TopoRootは、その自動性と効率性により、ハイスループットの根像バッチ処理に適したアルゴリズムとなっている。本ソフトウェアはX線CTデータセットとともにGitHub上での無償配布を行っており、将来的には、根系構造の背景にある遺伝的基盤を見つける事でより生産的な作物を開発する事を目的とした、フェノミクス研究に役立つ事が期待される。

 

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください(zoomURLをお伝えします)。平井泰蔵