2022年度前期 第7回 細胞生物学セミナー
日時:6月21日(火) 16:30~ 場所:Zoom
Calcium-dependent ABA signaling functions in stomatal immunity by
regulating rapid SA responses in guard cells
J. Plant Physiol. 268(2022) 153585
Ou , X ., Li, T., Zhao, Y., Chang, Y., Wu, L., Chen, G., Day, B., Jianng, K
カルシウム依存性ABA阻害シグナルは孔辺細胞における迅速なSA応答
を制御することにより気孔免疫に機能する
気孔を囲む孔辺細胞は生物的・非生物的な刺激を感知し、気孔の幅を変化させることで植物と環境との間のCO2と水蒸気の交換を最適化するバルブとして機能する。気孔の調節にはアブシジン酸(ABA)が関与するが、気孔免疫におけるABAシグナルトランデューサの機能的関与は十分に理解されていない。
先行研究より、多くの気孔のABAシグナル伝達物質が同定されている。ABAが促進する気孔閉鎖の際に、カリウム流入チャネルの阻害と低速型(S型)アニオンチャネルの活性化が生じるが、これはカルシウム依存性キナーゼであるSnRK2ファミリーキナーゼOpen Stomata 1(OST1)の変異体で著しく減弱することが分かっている。また異種発現系を用いたin vitro再構成実験から、孔辺細胞のS型アニオンチャネルであるSLAC1は、PP2C型ホスファターゼABI1の制御下で、OST1によって活性化されることが示唆されている。このOST1は、孔辺細胞のイオンチャネルのABA制御やセカンドメッセンジャー生成に関与しているため、ABAによる気孔応答の律速因子であることが示唆されている。気孔は葉の表面にある孔であるため、葉面病原体が侵入する経路にもなっている。植物は孔辺細胞表面に局在するパターン認識受容体(PRR)によって病原体関連分子パターン(PAMP)を感知すると速やかに気孔を閉じる。ABA欠損変異体aba3-1では、細菌による気孔閉鎖が阻害され、いくつかのABAシグナル伝達成分の遺伝子欠損も、flg22不感受性を生じさせることが明らかとなった。加えて、ABAで処理したシロイヌナズナ培養細胞においてOST1活性が向上したが、flg22処理によるOST1の活性化の証拠は得られていない。したがって、ABAがどのように気孔免疫に関与しているのかという問題をさらに解明する必要がある。
本研究では細菌や細菌性エリシターに対する気孔応答を制御する孔辺細胞のABAシグナル伝達経路について調べた。まず、ABA受容体の変異体pyr/pyl (1124) とabi1-11において、Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000 (Pst DC3000)を接種した後の気孔開口度を測定した結果、Pst DC3000誘導性の気孔閉口は抑制された。また、OST1とカルシウム依存性タンパク質キナーゼであるCPK3/4/5/6/11の一重変異体と二重変異体についても解析を行った結果、cpk3-1およびcpk11-2、ost1-3、ost1-4以外の変異体ではPst DC3000誘導性の気孔閉口は抑制された。このことから、CPK4/5/6がABAシグナルコアから下流のエフェクターへのシグナルを中継し、SnRK2ファミリーのメンバーはABAによる気孔防御に僅かな役割しか持たないことが示唆された。次に、CPKsの遺伝子変異がflg22をトリガーとするアポプラストの活性酸素生成に与える影響を調べた結果、cpk4-1およびcpk5-1ではアポプラストの活性酸素の生成が減少した。このことから、flg22がNADPHオキシダーゼを介して引き起こす活性酸素の生成は、カルシウム依存性タンパク質キナーゼであるCPK4/5/6によって制御されている可能性がある。また、CPK4/5/6の変異体において、コロナチン欠損株であるPst DC3118接種時のSAの含有量を定量した結果、葉の表皮におけるPst DC3118誘導性のSA量の増加は見られなかった。
これらの結果から、CPKsは気孔における局所的なSAレベルを強化するだけでなく、アポプラストの活性酸素レベルの微調整を介して気孔免疫において機能していることを示唆している。また、ABAは2つの異なる、しかし、部分的に重複する伝達モジュールを介して、生物的および非生物的ストレスに対する気孔の応答を仲介すると想定される。
興味を持たれた方は唐原先生か玉置先生にご連絡ください.ZoomのURLをお伝えします. 春成万里子