2022 年度後期 第 10 回 細胞生物学セミナー
日時:11 月 29 日(火)16:30〜 場所:Zoom
Three dimensional root CT segmentation using multi-resolution encoder-decoder networks
Soltaninejad, M., Sturrock, C.J., Griffiths, M., Pridmore, T.P. , Pound, M.P. (2020)
IEEE Trans. Image Process. 29: 6667-6679.
多重解像度エンコーダーデコーダーネットワークを用いた3次元根系CT像セグメンテーション
根系の表現型分類とは、植物根系を客観的かつ定量的に特徴づけるプロセスであり、根系の発達や環境への応答、自然土壌環境との相互作用の仕方についての貴重な洞察をもたらす。従来このアプローチは、掘り出した根を洗浄し、撮影した可視光画像を解析する事で行われていた。このアプローチは、効率的ではあったが同時に破壊的なものでもあり、根の構造を維持したままでの画像データ取得や、根の成長の経時的観察には課題が残る手法であった。半透明ゲルやその他の人工培地で成長させることで、根系構造を維持したまま複数のタイムポイントで非破壊的に画像取得を実現する手法が考案されたこともあったが、生育環境が人為的であり、土壌との相互作用が観察できない事がネックであった。
X線CTを用いれば、根や土壌の構造を乱さないまま土壌中の根系画像を取得する事が可能となるが、とはいえ、X線CTにより取得した画像をそのまま根表現型分類に用いる事は難しい。このためには、画像処理を複数行う事で画像からの根系構造抽出を実現しようとするようなアプローチか、数理モデルを使用して機械学習的に画像からの根系構造抽出を行うアプローチかをとる必要がある。
筆者らは、土壌CT画像からの根系構造セグメンテーションを実現するために後者のアプローチを採用した。入力データを処理するためのエンコーダーと,出力データを生成するためのデコーダーとが対となった構造をエンコーダーデコーダーモデルとよぶ。筆者らの提案する手法は、このエンコーダーデコーダー構造をベースとした、最先端の多重解像度アーキテクチャによる深層学習アプローチである。このアプローチでは、局所的ながらも高解像度な画像を用いたセグメンテーションの為のタスクと、より広い範囲を捉えながらも低解像度な画像を用いた文脈情報取得の為のタスクとを別々に担えるような構造をもつネットワークを採用しており、メモリ効率の良い実装でありながらも、大容量画像を処理し高解像度のセグメンテーションを得る事が可能となっている。また、後半では、対象物以外のネガティブサンプルのうちより識別しにくいサンプルである、ハードネガティブサンプルを用いたモデルの追加学習を行うことで、ネットワークの更なる精度向上を実現した。
このネットワークと、エンコーダーデコーダー構造をベースとする他のネットワーク、および根系CTセグメンテーション用に設計された既存の根像解析ツールRoot1との比較を行った結果、筆者らが今回提案する手法ではF値が0.740, IoU Scoreが0.588を示し、今回の手法が局所的高解像度画像に対しても広範な低解像度画像に対しても、ともに大幅な精度向上をもたらすことがわかった。また、今回提案の手法では精度が0.733, 再現率が0.750 を示し、精度か再現率か、どちらかのトレードオフとなりやすい他手法と比べ、今回提案の手法にはこれらを高パフォーマンスで両立できるという特性があることもわかった。
興味を持たれた方は是非ご参加ください(zoomのURLをお伝えします)。平井泰蔵