2022 年度後期 第 13 回 細胞⽣物学セミナー

⽇時:12 6 () 1630〜 場所:Zoom

Impairment of 7F2 osteoblast function by simulated partial gravity in a Random Positioning Machine

Wagner, J. B. and Lelkes, P. I.

npj Microgravity. 8:20 (2022)

ランダムポジショニングマシンでシミュレートされた部分重力による7F2骨芽細胞機能の低下

 

微小重力環境下では骨量が大幅に減少し、適切な対策を行わないと宇宙空間での骨折のリスクが高まり、地球に帰還したときの生活の質に悪影響を及ぼす。骨量減少の主な原因は、骨芽細胞や骨細胞の活性が阻害され骨の石灰化が減少すると同時に、破骨細胞の再吸収が増加することであると考えられている。軌道上の微小重力環境(10-4-10-6 G)で行われた先行研究では、骨芽細胞の増殖が抑制され骨形成分化が遅延し、骨分化を制御する遺伝子の発現が低下すると同時に破骨細胞の増加による積極的な骨吸収が起きることが報告されている。また、地上で微小重力環境を再現することができるRWVバイオリアクターやクリノスタットを利用した擬似微小重力環境下でも同様の結果が得られているが、部分重力が骨芽細胞の機能に与える影響に関しては、比較した研究が少数しかなく理解されていない。今後、月や火星への有人宇宙飛行が控えていることを考えると、部分重力の研究を増やすことが必要である。これまでは地上で部分重力をシミュレートすることは困難であったが、ソフトウェア駆動型のランダムポジショニングマシンの新バージョン (RPMSW)を用いることで、将来の有人宇宙ミッションに関連する部分重力のシミュレーションを行うことができた。本研究では、このRPMを用いてシミュレートしたMars (0.38 G)Moon (0.16 G)microgravity (Micro、∼10-3 G)Earth (1 G)の重力条件下で、マウス前骨芽細胞 (7F2細胞)を培養した。擬似重力条件の変化が、細胞増殖や骨形成分化のような骨芽細胞の初期段階の機能に及ぼす影響に主に焦点を当て、さらに細胞基質の石灰化のような後期の段階の機能に及ぼす影響についても評価した。このような段階別の骨芽細胞機能の制御が擬似部分重力の程度に依存すると仮定し、この仮説を検証するために、細胞増殖と成熟 (ALP酵素活性とミネラル沈着)、骨形成マーカー遺伝子の発現について調査した。

細胞増殖については、培養2日目から4日目までは全ての重力条件下で細胞が活発に増殖していたが、4日目から6日目の間にEarthの細胞がコンフルエンス(培養細胞が接着面いっぱいに広がった状態)に達した。4日目までにEarthと比較してMarsMoonMicroで細胞増殖が重力の大きさの減少に依存して有意に抑制された。細胞が活発に増殖していた2-4日に関して集団倍化時間 (PDT)を算出するとMicro2.95 ± 0.16 日、Moon1.5 ± 0.30 日、Mars1.4 ± 0.08 日、Earth0.96 ± 0.15 日であった。また、骨芽細胞成熟マーカーとして知られ骨芽細胞の石灰化の重要な制御因子であるアルカリホスファターゼ (ALP)酵素活性を測定すると、Earthと比較してMarsMoonMicroの条件下で重力の大きさの減少に依存してALP活性が減少した。次に、それぞれの重力条件が骨形成に重要な遺伝子であるAlkaline Phosphatase (ALPL)Runt関連転写因子2 (RUN)、Osteonectin (ON)の初期の発現に及ぼす影響を定量RT-PCR法で評価した。これらの遺伝子の発現量は、Marsをシミュレートした部分重力に曝露されると有意に減少し、MoonMicroの条件下で細胞を培養するとそれ以上減少せず、閾値を示す挙動がみられた。最後に、細胞基質の石灰化の定量的解析を行った。培養14日目にはMarsMoonMicroの全ての重力条件で石灰化が重力の大きさの減少に依存して抑制された。

本研究によって、擬似部分重力下での重力の大きさの減少に依存した骨形成反応が初めて明らかにされた。今後の宇宙探査に向けて、月や火星重力の影響に関する研究が不足していることから、重要な意味を持つ。

興味を持たれた⽅は是⾮ご参加ください。Zoom URL をお伝えします。 ⽥⼝ 直哉