2022年度後期期 第17回 細胞生物学セミナー

日時:1220() 1630〜 場所:Zoom開催

Molecular basis to integrate microgravity signals into the photoperiodic flowering pathway

in Arabidopsis thaliana under spaceflight condition

Xie. J., Wang. L., Zheng. H. (2022)

Int. J. Mol. Sci. 23: 63

宇宙飛行条件下のシロイヌナズナにおける光周性花成経路に微小重力シグナルを
統合するための分子基盤

 

宇宙飛行が植物の花成制御に及ぼす影響を理解することは、長期有人宇宙探査のための生命維持システムを構築する上で重要である。しかし、宇宙実験のほとんどは、重力屈性や重力形態形成など、宇宙での短期的な特定の現象に焦点を当てたものであり、植物の花成が宇宙飛行によってどのような影響を受けるかはまだ不明である。本研究では、微小重力環境下で種子から栽培された植物の花成時期に光周期条件がどのように影響するかについて調べることを目的とした。

シロイヌナズナの野生型(WT)、本研究でFLOERING LOCUS T (FT)の発現を調べるため作出したpFT::GFP遺伝子組み換え体(pFT:: GFP)およびft-10変異体(ft-10)を、Chinese spacelab TG-2に搭載された植物培養ボックス(PCB)内(µ×g-PCB)、および地上のPCB内(1× g-PCB)または温室内(1× g-GH)で、長日(LD)または短日(SD)条件下で栽培した。µ×g-PCBで栽培されたWTpFT::GFPおよびft-10は、地上対照区と同様に光周期条件によらず良好に発芽した。播種10日後において、LD条件下では、µ×g-PCB1×g-PCB1×g-GHで栽培されたシロイヌナズナで展開したロゼット葉が観察されたが、SD条件下では、3条件全てで胚軸が伸長し子葉が縮小した個体が確認された。LD条件下においてµ×g-PCBで栽培されたWTおよびpFT::GFPは、1×g-PCBで栽培されたものより花成が20日ほど遅かった。SD条件下で栽培したシロイヌナズナは、播種70日後まで花成が起こらなかった。LD条件下においてµ×g-PCBおよび1×g-PCBで栽培されたpFT::GFPの発現パターンをGFP Imaging Systemによってモニターしたところ、µ×g-PCB1×g-PCBと比較して、FTの発現リズムは変化していないが、発現ピークが遅く出現することが示された。また、LD条件下においてµ×g-PCBおよび1×g-PCB48日間栽培されたWTのロゼット葉を用いて、全ゲノムマイクロアレイ解析を行った結果、µ×g-PCBでは1×g-PCBと比較して、花成期において発現するシロイヌナズナ遺伝子の約16%の転写レベルが変化していることが明らかになった。GOエンリッチメント解析の結果、それらの遺伝子は、温度への応答、傷害、タンパク質の安定化などで発現上昇し、概日リズム、ジベレリン、mRNAプロセスの機能などで発現低下していた。さらに、花成を開始するFTSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CO1SOC1)は、1×g-PCBと比較して、µ×g-PCBで発現量が変化した。

本研究から、FTおよびSOC1は、シロイヌナズナにおいて、宇宙飛行条件下のストレスシグナルを光周性花成経路に統合するためのハブとして機能する可能性が示唆された。今後は、微小重力下や、月や火星などの部分重力下での植物の花成制御機構を解明するため、連続世代による長期宇宙実験と分子レベルでの制御ネットワークの系統的解析が必要であると考えられる。

 

興味を持たれた方は是非ご参加くださいzoomURLをお知らせします)。千龍海夕