2022年度後期 第1回 細胞生物学セミナー

日時:1018() 1630〜 場所:Zoom開催

AP2/ERF transcription factors regulate salt‑induced chloroplast division

in the moss Physcomitrella patens

Do, T. H., Pongthai, P., Ariyarathne, M., Teh, O., Fujita, T. (2020)

J. Plant Res. 133:537–548.

AP2/ERF転写因子によるコケ植物Physcomitrella patensの塩分誘発性葉緑体分裂の制御

 

葉緑体分裂は, 植物細胞にとって葉緑体数を適切に維持するために重要なプロセスである. 非生物的ストレスは, 葉緑体の分裂・分化・形態に影響を与えることが知られているが, その意義や制御機構はほとんど分かっていない.

本研究では, コケ植物Physcomitrella patens (Hedw.) Bruch and Schimp subsp. patensの原糸体細胞を用いて, 塩ストレスによる葉緑体分裂の制御について調べた. まず, 100, 150, 200 mMNaCl を添加したBCDAT寒天培地で野生型の原糸体を培養し, 塩ストレスが葉緑体分裂に影響を与えるか調べたところ, すべての濃度で細胞あたりの葉緑体数が有意に増加した. 植物の非生物的ストレス応答の制御に関与する転写因子として知られるAPETALA2/ETHYLENE RESPONSIVE FACTOR(AP2/ERF)転写因子が葉緑体分裂に関与していると仮定し, データベース検索を行ったところ, P. patens AP2/ERFサブファミリーで高塩分条件下で高度に発現上昇する5つの遺伝子を発見した. BLASTPを用いて, 5つのAP2/ERF転写因子とArabidopsis thaliana (L.) Heynh. で類似したタンパク質を検索したところ, 5つのAP2/ERF転写因子はそれぞれA. thalianaERFサブファミリーと最も高い類似性を示すことがわかった. ERFサブファミリーに着目した系統樹を作成して, 5つのAP2/ERF転写因子がERFサブファミリーのサブグループ(Group B-1, B-3, B-6Va)に属していることを確認し, それらをPpERF/B1-1, PpERF/B3-1, PpERF/B3-2, PpERF/B3-3, PpERF/B6-1と命名した. 5つのAP2/ERF転写因子が葉緑体分裂を制御しているかを調べるため, β-estradiol誘導性過剰発現系統(PpERF/B3-1iox (#31), PpERF/B3-2iox (#39), PpERF/B3-3iox (#15), PpERF/B1-1iox (#72), PpERF/B6-1iox (#95)) を作製し, 葉緑体分裂の表現型を調べたところ, 3つの系統(PpERF/B3-1iox (#31), PpERF/B3-2iox (#39), PpERF/B3-3iox (#15))で細胞あたりの葉緑体数が有意に増加した. 次に, 塩ストレスによる葉緑体分裂にAP2/ERF 転写因子の標的遺伝子の転写活性化が必要であるかを調べるため, β-estradiol誘導によりPpERF/B3-2のドミナントリプレッサー型を過剰発現させるトランスジェニック系統(PpERF/B3-2 SRDX (#1, #36))を作成し, 葉緑体分裂の表現型を調べたところ, NaClβ-estradiol存在下でPpERF/B3-2-SRDX (#1, #36), 野生型およびPpERF/B3-2iox (#39)と比較して葉緑体数が有意に少なくなった.

以上の結果から, AP2/ERFスーパーファミリーメンバーを介して, 塩ストレスによる葉緑体分裂が制御されていることが示唆された. また, 同じく塩ストレス下で葉緑体数が増加するテンサイ, ホウレンソウなどの塩性植物とP. patens, ストレス環境下において一定の光合成速度を維持するために葉緑体数を制御する類似した機構を持つことが示唆された.

 

 

興味を持たれた方は是非ご参加くださいzoomURLをお知らせします). 千龍海夕