2022年度後期 第20回 細胞生物学セミナー

日時：1月17日(火) 17：45～ 場所：Zoom 開催

The Chara Genome: Secondary Complexity and Implications for Plant Terrestrialization

Nishiyama, T. Sakayama, H., Vries, J., Buschman, H., Saint-Marcoux, D., Ullrich, K. K. et al.
Cell 174, 448-464 (2018)

シャジクモのゲノム：二次的複雑性と植物の地上化に関する示唆

植物発生における重要な出来事は古生代中期の陸上適応である。陸上植物は藻類から進化したもので、両者を総称してストレプト植物という。最近の研究でホシミドロ藻綱が陸上植物に最も近縁なグループであることが示されているが、藻類の中でも最も複雑なボディプランを持つのは車軸藻綱である。本研究では車軸藻綱の中で最も形態が複雑なシャジクモ（Chara braunii）のゲノム配列を示し、陸上植物との比較から植物の陸上化に関する進化的新奇性や陸上植物の遺産となる遺伝子を同定した。それにより初期陸上植物の多様化と植物の陸上定着について明らかにする。

C. brauniiは陸上植物と同様にフラグモプラストを用いた細胞分裂機構を有する。車軸藻綱、コレオケーテ藻綱、ホシミドロ藻綱の植物は陸上植物と同様にフラグモプラストを形成することから、フラグモプラスト植物として分類されることが知られている。フラグモプラスト関連遺伝子ファミリーがC. brauniiを含むフラグモプラスト植物で拡大し、緑藻植物門、Klebsormidium nitens、Mesostigma virideなど陸上植物と共通の性質が少ない藻類では拡大してないことから、C. brauniiではフラグモプラストが潜在的機能分化または新機能獲得によるものであることが示唆された。C. brauniiは陸上植物と同様にペクチンとヘミセルロース、セルロースからなるが、ヘミセルロースに含まれるキシラン合成に関しては独自のキシラン合成酵素を用いることが明らかになっている。本研究により、このキシラン合成酵素に関与する配列を初めて明らかにした。C. brauniiは、オーキシン（AUX）、サイトカイニン（CK）、エチレン、アブシジン酸（ABA）、ストリゴラクトン（SL）と多くの植物ホルモンを分泌することが知られている。AUXとCKはストレプト植物が獲得し、SLとABAはフラグモプラスト植物から獲得したとされているが、本研究により、それぞれの合成やシグナル伝達経路は種子植物とC. brauniiで異なることが明らかになった。C. brauniiのプラスチドは、陸上植物に似た逆行性シグナルによって制御されており、この伝達はフラグモプラスト植物の進化的新規性である可能性が示された。シャジクモ綱の形態の複雑さは、遺伝子ファミリーの拡大に起因すると考えられ、活性酸素種（ROS）に対する耐性に影響を与える遺伝子、LysM受容体様キナーゼ、転写因子（TF）の3つで顕著である。有性生殖構造のトランスクリプトーム解析により、TFによる複雑な制御、ROS遺伝子ネットワークの活性、接合子における植物様貯蔵タンパク質とストレス保護タンパク質の祖先的な利用が明らかになった。

　本研究の比較ゲノム解析の結果、C. brauniiの系統学的配置は陸上植物に近い系統に分類され、顕著な類似点と相違点があることが明らかになった。本研究から、陸上植物の特徴と考えられていたものの多くは車軸藻綱やコレオケーテ藻綱を含むフラグモプラスト植物の共通祖先で進化したものであることがわかった。藻類から陸上植物に残された遺伝子は、陸上適応での最初のステップになったと考えられる。

興味を持たれた方は是非ご参加ください（zoom の URL をお知らせします）。成瀬真友香