2022 年度後期 第 4 回 細胞⽣物学セミナー

⽇時:11 1 () 1630〜 場所:Zoom

Wide-Range High-Resolution Transmission Electron Microscopy Reveals

Morphological and Distributional Changes of Endomembrane Compartments during Log to Stationary

Transition of Growth Phase in Tobacco BY-2 Cells

Toyooka, K., Sato, M., Kutsuna, N., Higaki, T., Sawaki, F., Wakazaki, M., Goto, Y., Hasezawa, S., Nagata,

N., Matsuoka, K.  Plant Cell Physiol. 55(9): 1544-1555 (2014)

広範囲で⾼解像度な透過型電⼦顕微鏡によるタバコ BY-2 細胞の対数増殖期から定常増殖期への

移⾏に伴う内膜コンパートメントの形態的・分布的変化の解明

 

植物細胞の細胞分裂と伸⻑による急速な成⻑には、内膜輸送系が必要であり、ゴルジスタック、エンドソーム、⼩胞などの内膜コンパートメントは、細胞伸⻑時の細胞壁物質の合成と輸送に重要である。しかし、これらのコンパートメントの形態、分布、数が細胞増殖と分化の異なる段階においてどのように変化するかは、まだ明らかにされていない。 

本研究では、⾼い増殖速度、⼤きな細胞体積、低い⾃家蛍光といった特徴を持ち、植物の細胞周期やタンパク質輸送の研究において最も頻繁に使⽤されているタバコ Bright yellow 2BY-2)細胞を⽤いて、対数増殖期および定常増殖期における内膜コンパートメントの変化を微細構造レベルで調査した。まず、対数増殖期のBY-2 細胞のシスゴルジに局在することが報告されている NtP4H1.1 RFP 融合タンパク質である NtP4H1.1RFP と、細胞膜およびトランスゴルジネットワーク(TGN)/ 分泌⼩胞群(SVC)に局在することが報告されている SCAMP2 YFP 融合タンパク質である SCAMP2-YFP を共発現させた BY-2 細胞を⽤いて、対数増殖期から定常期までのシスゴルジと TGN/SVC を含むゴルジスタックの分布変化を共焦点レーザー⾛査型顕微鏡によって解析した。その結果、定常期の細胞における RFP および YFP のドット数は、対数増殖期と⽐較して約 50%減少していた。さらにゴルジスタックや内膜コンパートメントの微細構造と分布を明らかにするために、広範囲かつ⾼解像度な透過型電⼦顕微鏡法を開発した。⾼圧凍結・凍結置換法により試料を作製する過程で、染⾊する際にタンニン酸を⽤いることで、トランスゴルジ嚢、TGN およびゴルジ体由来の⼩胞の電⼦密度が増加した。その後、細胞質内や核内の構造が⽐較的よく保存されている細胞を選んで連続切⽚を作製し、クエン酸鉛溶液で染⾊した後、⾃動取得タイリング透過型電⼦顕微鏡システムを⽤いて解析した。数千枚の透過型電⼦顕微鏡画像を合成して得られるギガピクセルクラスの広範囲な画像を⽤いて、細胞全体の縦断⾯における分泌性コンパートメントとエンドソームコンパートメントの分布の定量化と微細構造の特徴づけを⾏った。その結果、対数増殖期では全てのゴルジスタックが数個の厚いシステルナで構成されていたが、定常期のゴルジスタックは対数増殖期と⽐較して、システルナが薄く、サイズも⼩さかった。⼩胞群(VC)の数は対数増殖期よりも定常期の⽅が少なく、定常期に観察された VC の平均幅は対数増殖期の半分以下であった。多胞体や⼩型の⾼密度な⼩胞の数は、対数増殖期と定常期で有意な差は⾒られなかった 。

本研究により、細胞全体の縦断⾯におけるオルガネラの分布の可視化とコンパートメントの定量化が可能となった。また、電⼦顕微鏡とライブ蛍光イメージングの結果は、細胞が対数増殖期から定常期に移⾏する際に、分泌性に関連するコンパートメントの形態と分布が劇的に変化することを⽰している。今後、広範な TEM 解析により、植物の組織・細胞内における内膜をはじめとするオルガネラの微細構造や、様々な環境ストレスに対する応答について、さらに解明していく必要がある。 

 興味を持たれた⽅は是⾮ご参加ください。Zoom URL をお伝えします。 ⽥⼝ 直哉