2022年度後期 5 細胞生物学セミナー

日時:118日(火)16:30〜 場所:Zoom

Methyl jasmonate effect on betulinic acid content and biological properties of extract from Senna obtusifolia transgenic hairy roots

Kowalczyk, T., Sitarek, P., Merecz-Sadowska, A., Szyposzyńska, M., Spławska, A., Gorniak, L., Bijak, M. and Śliwiński, T. (2021)

Molecules 2021, 26(20), 6208

薬用植物エビスグサのトランスジェニック毛状根の抽出物であるベツリン酸量と生物学的特性に対するジャスモン酸メチルの影響

 

in vitroでの植物培養は,天然由来の生物活性物質の豊富な供給源であり,人類の生活の多くの分野でますます重要性を増している.この分野における数多くの研究によって,二次代謝産物を生産する培養植物の能力はさまざまな技術の基礎として多くの産業で利用されている.そして,生産性を向上させる手法のひとつとして,植物細胞にストレスを与える因子を外部投与し,任意の二次代謝産物の生産を増加させるエリシテーションという方法がある.これまでの筆者らの研究から,遺伝子操作とバイオリアクターでの毛状根培養法などを組み合わせることにより,Senna obtusifolia (L.) H.S.Irwin et Barnebyの毛状根における有用な二次代謝産物を有意に増加させることができることが分かった.本研究では,以前の研究に引き続き,スクアレン合成酵素遺伝子を過剰発現させたトランスジェニック毛状根を10 Lスプリンクルバイオリアクター内で培養し,ジャスモン酸メチル(MeJA)を添加することにより,更なるベツリン酸含量の増加を試みた.

その結果,毛状根のベツリン酸含量を48 mg/g dry weightまで増加させることに成功した.また,抽出したエキスをU87MGDU-145およびA549がん細胞株に加えたところ,この抽出物はこれらの3つのがん細胞株に対して細胞毒性を有することが分かり,特にU87MG神経膠芽腫細胞株に対して強い細胞毒性を示した.続いて,U87MG細胞株にIC50濃度の毛状根抽出物を添加し,フローサイトメトリーによりアポトーシスの定量を行ったところ,毛状根抽出物がU87MG細胞株においてアポトーシスを誘導することが分かった.次に,U87MG細胞株においてミトコンドリア膜電位(MMP: Mitochondrial Membrane Potential)を測定したところ,毛状根抽出物によってMMPが有意に減少した.また,毛状根抽出物による処理でDNAの断片化が見られた.さらに,毛状根抽出物がU87MG細胞株においてDNAを切断する能力を有するか調べるためにコメットアッセイを行ったところ,毛状根抽出物がDNA損傷を誘発することが分かった.アポトーシス実行酵素であるカスパーゼ-3/7活性を調べたところ,毛状根抽出物処理によって未処理細胞の10.5倍の酵素活性が得られることが分かった.そして,多くの抗がん剤候補が標的とするトポイソメラーゼIの阻害アッセイを行ったところ,毛状根抽出物がpUC19プラスミドDNAの超らせん構造を弛緩させるトポイソメラーゼI活性を阻害することが分かった.以上の結果から, 10 Lスプリンクルバイオリアクターを用いたin vitro培養技術とジャスモン酸メチルを用いたエリシテーションを組み合わせることで,S. obtusifoliaトランスジェニック毛状根のベツリン酸含量を増加させることができることが実証された.また,この毛状根から得た抽出物はU87MG細胞株に対して細胞毒性を有し,アポトーシスを誘導することが分かった。さらに,これまでの成果から,カスパーゼ-3/7カスケードの活性化,MMPの低下,DNA断片化,DNA損傷レベルの上昇により,神経膠芽腫細胞U87MG株のアポトーシスが誘導されるというメカニズムの可能性が提示された.

興味を持たれた方は是非ご参加ください。ZoomURLをお知らせします。 小出みなみ