2022年度後期 第8回 細胞生物学セミナー

日時:1115日(火)1630〜 場所:zoom開催

Spindle motility skews division site determination during asymmetric cell division in Physcomitrella

Kozgunova, E., Yoshida, M. W., Reski, R., Goshima, G. (2022)

Nat. commun. 13: 2488

 

ヒメツリガネゴケにおける非対称分裂中の紡錘体運動が細胞分裂位置の決定を歪める

 

多細胞生物の発生は複雑な形態形成に重要であり、正常な発生には正確な非対称分裂(ACD)が行われる必要がある。植物の細胞分裂位置は、細胞周期のG2期から前中期にかけて生じる分裂準備帯(PPB)という微小管構造体によって決定し、ACDにもPPBが重要であると考えられている。一方でヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)PPBを形成しないが、茎葉体のような複雑な立体構造への指向性を持った細胞分裂とパターニングが可能であり、PPB非依存的な分裂面決定に関するモデル植物として興味深い。TPX2は動植物で広く保存された微小管付随タンパク質であり、動物細胞ではγ-チューブリンなどのタンパク質と共に迅速な微小管核形成や微小管増幅によって紡錘体形成を助けるが、植物細胞におけるTPX2の紡錘体形成と微小管増幅への関与は分かっていない。

本研究では、ヒメツリガネゴケのTPX2-1-5を同定し、紡錘体構築におけるTPX2の機能の特徴付けを目的とした。まず、各内在性TPX2を可視化し、原糸体における細胞内局在について観察した。その結果、TPX2-1は紡錘体とフラグモプラストの微小管マイナス端への優先的な局在が示された。また、TPX2-2, -4は紡錘体とフラグモプラストの中間帯を除いた領域に局在していた。さらに、これらのTPX2は細胞質分裂の進行に伴いシグナルの減少が見られたが、TPX2-5では細胞分裂後期に発現増加し、細胞質分裂では中間帯を除いてフラグモプラストに局在した。一方、TPX2-3の発現は極めて低かった。次に、TPX2-1-4を全てノックアウトしたTPX2 1-4Δ変異体と、この変異体を背景にTPX2-5の発現が低下したTPX2-5 HM1変異体を単離した。各系統の茎葉体の葉を観察すると、野生型とTPX2 1-4Δには有意な差は見られなかったが、TPX2-5 HM1は矮性で葉当たりの細胞数が少なく、細胞密度が減少していた。また野生型では、葉の頂端側は小さい細胞、基部側は大きな細胞で形成されるが、TPX2-5 HM1では頂端側でも大きな細胞が観察された。次に各系統の初期茎葉体の一回目の細胞分裂を観察すると、TPX2-5 HM1で細胞板の位置が野生型よりも基部側にシフトし、娘細胞のサイズ比に偏りが生じていることが分かった。そこで、TPX2-5 HM1の紡錘体に注目すると、73%の細胞で紡錘体が5 µm以上基底側に移動していることが分かり、TPX2発現低下による核膜消失後の紡錘体位置の異常が、茎葉体形成における細胞板位置の異常を引き起こすと結論付けた。さらに、TPX2 1-4Δ背景で誘導性TPX2-5 RNAi変異体を作出し、TPX2-5をノックダウンすると、茎葉体形成が完全に阻害されることが分かった。この変異体の原糸体先端幹細胞の分裂を観察すると、前期における核周辺の微小管シグナルの減少と、核膜消失から後期開始までの時間の増加、さらに紡錘体形成に関して染色体不分離や紡錘体位置決定異常などの複数の異変が確認された。また動物細胞では、紡錘体運動は微小管とアクチンに依存するため、初期茎葉体における細胞骨格が紡錘体に与える影響について調べた。その結果、アクチン脱重合剤であるラトランキュリンAを各系統に処理にすると、野生型では有意な差は見られなかったが、TPX2-5 HM1に処理すると、紡錘体の基底方向への移動を完全に抑制することが分かった。

これらの結果から、ヒメツリガネゴケにおけるTPX2は細胞分裂における紡錘体位置決定に関与していることが示唆された。また、TPX2の活性減少下において、紡錘体位置決定におけるアクチンの関与が明らかになった。

 

興味を持たれた方はぜひご参加ください。zoomURLをお知らせします。 栗田紘生