2023年度前期 2 細胞生物学セミナー

日時:516日(火)16:30~ 場所:ZOOM

Farming on Mars: Treatment of basaltic regolith soil and briny water simulants sustains plant growth

Kasiviswanathan, P., Swanner, E. D., Halverson, L. J., Vijayapalani, P. (2022)

PloS One, 17: e0272209.

火星での農業:火星を模擬する 玄武岩質レゴリスと塩分を含む水を用いた植物栽培

 

火星への有人探査における基本的な課題は、その場の資源を利用して消費可能な食料を効率的に生産することである。そのためには火星の土であるレゴリスの栄養分を高めて除塩する技術が求められる。本実験では、火星を模擬する玄武岩質レゴリスおよび塩水を植物栽培に適した資源として利用するための単純で効率的な方法と,栄養分に乏しい玄武岩質レゴリスの模擬土壌(以下,レゴリス)に養分を補給せずに生育できる植物種を栽培し、その植物を肥料として農作物を栽培することを目指した。

レゴリスに水のみ与えて2週間生育させたカブ(Brassica rapa)2週間化学肥料(Jack’s Pro LX)を施すと、施さない場合に比べシュート長が163%と有意に増加したことから、レゴリスには植物の生長に必要な栄養分を補う必要があると考えられた。そこで、栄養分の補強を目的とし,無処理のレゴリスを用いて無肥料でも良く生育するマメ科アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ,Medicago sativa L.)を乾燥させ粉末にし,緑肥としてレゴリスに混ぜることがカブなどの栽培に有効か検証した。その結果、アルファルファの緑肥を処理したレゴリスで育てた場合は、無処理のレゴリスと比べて4週齢のカブの草丈では190%7週齢のダイコン(Raphanus sativus L.)の食用部位(胚軸と根)の生重量では311%7週齢のレタス(Lactuca sativa L.) の葉の乾燥重量では79%と、植物の成育やバイオマスが著しく増加した.これにより無処理の模擬土壌で栽培したアルファルファがレゴリスへの緑肥として有効であることを実証できた。

 次に,レゴリスに塩分が加わった場合のアルファルファの発芽への影響を調べたところ,真水での栽培では3日で100%の発芽を確認できたのに対し、火星相当の塩水 (0.343 mol L-1) 添加では7日以内に発芽を確認できなかった。この結果から種子の発芽は塩分濃度が高いと阻害されることが分かる。火星の塩水を脱塩するために微生物を利用することができれば,逆浸透を用いるよりも遙かにエネルギーコストが低い.その可能性を探るため、模擬塩水の脱塩効果を海洋由来のシアノバクテリアSynechococcus sp. PCC 7002を用いて調べた。0.171 mol L-1 NaClを含むBG-11 寒天培地で継代培養したPCC 7002株をBG-11を含む模擬塩水(0.343 mol L-1 NaCl)中で培養した結果、4週間目まで増殖を続けた.その間、模擬塩水中の実用塩分単位と電気伝導度(EC値)は低下していき,4週間後には塩分が32%低下した.塩分をシアノバクテリアに吸収させ,有意ではないがある程度塩分が低下した模擬塩水をそのままの状態(無濾過脱塩模擬塩水),つまり,シアノバクテリアを含んだまま濾過していない状態で,アルファルファを緑肥として添加したレゴリスに与え,3週間後にカブの生育を調べたところ正常な生育は見られなかった。そこで模擬塩水からシアノバクテリアの細胞を除去することにした。多孔質の玄武岩質火山岩を利用してシアノバクテリアを濾過すると,濾液の吸光度が83%低下し、シアノバクテリアが概ね除去されていることが確認され、実用塩分単位と電気伝導度はいずれも91%減少した。この濾過脱塩模擬塩水を与えて緑肥添加したレゴリスで6週間生育させたところ,無濾過脱塩模擬塩水の場合と比べて植物体の乾燥重量にしてカブで248%,ダイコン食用部位で1047%増加した.以上より、シアノバクテリアを用いた模擬塩水の生物脱塩と岩石ろ過の組み合わせという簡便で効果的な脱塩戦略が示された。

 以上の結果からアルファルファを緑肥として添加する工夫と、微生物を用いた脱塩水を用いて,火星の玄武岩レゴリス土壌において作物を育てることが可能であることが示された。次は穀物やマメ科の作物の生育試験を行う予定である。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。ZoomURLをお知らせします。 森緋色