2023年度前期　第6回　細胞生物学セミナー

日時：6月13日(火)　16:30〜　場所：zoom

Light-independent regulation of algal photoprotection by CO₂ availability

Ruiz-Sola, M. A., Serena Flori, S., Yuan, Y., Villain, G., Sanz-Luque, E., Redekop, P. et al. (2023)

Nat. Commun. 14:1977

CO₂可用性による藻類の光防御の光非依存的制御

光合成を行う生物にとって、自然環境で大きく変動する光と栄養の条件に効率的に順応することは大きな課題である。光は光合成による炭素固定のエネルギーを供給するが、過剰な光は酸化障害を引き起こし、最終的に細胞死を引き起こす。光合成藻類は、生育に最適ではない光条件とCO₂条件に対処するメカニズムを進化させてきた。過剰に吸収した光エネルギーを熱として放出する光防御メカニズムをエネルギー依存クエンチング（qE）と呼ぶ。緑色微細藻類 クラミドモナスChlamydomonas reinhardtiiのqEは、集光性複合体ストレス関連タンパク質であるLHCSR1とLHCSR3、光化学系II サブユニットSであるPSBSに依存する。また、CO₂濃度が低いと光独立栄養成長ができないため、微細藻類はRuBisCO周辺のCO₂濃度を上昇させ高効率でCO₂固定を行うCO₂濃縮機構（CCM）を進化させた。クラミドモナスはCO₂だけでなく、暗所での従属栄養成長・明所での光従属栄養成長や混合栄養成長を支えるために酢酸（C₂H₄O₂）も使用することが知られている。クラミドモナスにおいて、光エネルギーがCO₂固定能力を超えると、LHCSR1/3とPSBSを介した光防御機構とCO₂濃縮機構（CCM）を活性化させる。光とCO₂濃度の関係は明らかであるにもかかわらず、これまでその生理的反応は別々に研究されており、光とCO₂のシグナルがどのように収束してこれらのプロセスを制御しているのかはまだ明らかになっていない。本研究はクラミドモナスを用いて、遺伝学的および数理モデル的アプローチによってqEとCCMの炭素依存性調節に関するメカニズムやその密接な関係を調べた。

クラミドモナスの酢酸代謝機能を欠損した株（icl、dum11）、CCM制御因子であるCIA5を欠損した株（cia5）、WTの遺伝子で欠損遺伝子を相補した株（icl-C、cia5-C）を、高照度（HL）、低照度、暗条件下において空気中に酢酸やCO₂を散布した中で培養し、mRNAおよびタンパク質を定量化した。まず、HLに曝されると光合成によってCO₂固定率が上昇し、細胞内のCO₂が低下した。それにより光防御遺伝子とCCM関連遺伝子が活性化された。次に、非常に低濃度のCO₂下では完全な暗黒下で培養した場合もCCM関連遺伝子とLHCSR3を高発現させた。一方で、呼吸活動の増進や光合成電子輸送の障害によって生じた高濃度のCO₂は、LHCSR3とCCM関連遺伝子を抑制すると同時に、LHCSR1タンパク質量が高レベルで維持された。LHCSR1タンパク質はLHCSR3が発現しない状況下において光防御タンパク質のバックアップとして働くと考えられた。さらにcia5において、LHCSR3 およびPSBS のmRNAの蓄積量は減少した。また、cia5においてLHCSR1 のタンパク質量は高レベルで検出され、高濃度のCO₂下ではそれが維持されたことから、CIA5とCO₂がqE 因子であるLHCSR1とLHCSR3、PSBS を制御する上で重要であることが示された。

本研究では、クラミドモナスのCCM遺伝子とLHCSR3を制御する主な要因は、細胞内のCO₂濃度であることを示した。この結果は、CO₂と光の役割を、光合成による炭素固定の基質としてだけでなく、光防御やCCM、さらにはゲノム全体の遺伝子発現を制御するシグナルとして、統合的に検討する必要があることを示している。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。ZoomのURLをお知らせします。成瀬真友香