2023年度 後期 第11回 細胞生物学セミナー

日時:123日(火)16:30〜 場所:Zoom

Microtubules self-repair in living cells

Gazzola, M., Schaeffer, A., Hallissey, C.B, Friedl, K., Vianay, B., Gaillard J., Leterrier, C., Blanchoin, L., Thery, M.,2023

Curr. Biol., 33(1), 122-133

微小管は生きた細胞内で自己修復する

 

微小管は真核生物の細胞質内に広がる極性を持ったα-チューブリンとβ-チューブリンの二量体を基本単位とする動的なポリマーで,分子モーターの軌道として機能し,細胞の極性,移動,分裂などの細胞内において重要な役割を果たしている.微小管はチューブリン二量体が自己集合して12-14本のプロトフィラメントになり,それが連なることで形成される中空のチューブである.微小管におけるチューブリン二量体は高密度に詰め込まれ,微小管格子という疑似結晶構造として高度に組織化される.また,微小管ダイナミクスは微小管端でチューブリン二量体の重合と脱重合に起因する伸長と収縮によって特徴づけられるが,それに加えて,チューブリン二量体は自己修復プロセスにおいて微小管格子内の既存のチューブリン二量体と交換される可能性が提唱されてきた.この微小管の自己修復プロセスについて先行研究では,in vitro で微小管端の短縮を防ぐためにキャップされた微小管は,周囲の遊離したチューブリン二量体が除去されるとねじれを形成し,再び添加すると回復することが報告されており,微小管格子におけるチューブリン二量体の消失と再取り込みが示唆された.しかし,生きた細胞における微小管の自己修復プロセスはまだ観察されていない.そこで本研究では,蛍光標識したチューブリン二量体を生きた細胞にマイクロインジェクションし,既存の微小管にチューブリン二量体が取り込まれる可能性について検証した.

 まず,GFP-チューブリン(Expression tubulin: ET)を発現する雄性ラットカンガルー腎臓上皮細胞(PtK2細胞)の細胞質に,精製した赤色蛍光チューブリン(Injected tubulin: IT)をマイクロインジェクションし,微小管重合部位の局在を調べた.その結果,10 µMの赤色蛍光チューブリン二量体を注入して4分間で微小管ネットワークの約半分が更新され,注入2分後にはいくつかの微小管にITパッチ(微小管軸上に存在する斑点状シグナル)が観察された.そこで,ITパッチの形成される起源を明らかにするために,パッチ領域の緑色蛍光二量体(ET)と赤色蛍光に量体(IT)の蛍光強度を調べた.その結果,ITパッチが微小管に沿って存在する領域ではET蛍光強度が減少した.さらに,ITパッチにおけるIT二量体の局在と,微小管伸長端におけるIT二量体の局在を比較し,双方で微小管の厚さに差が無いことを確認した.これらの結果から,パッチはIT二量体が微小管側面に結合せず,ETが無くなった微小管格子内にITが取り込まれて形成されることが示唆された.

 次にIT注入からの時間とIT濃度における二量体付加の変化を測定した.まず,取り込みの時間的変化について,5 µMの低濃度ITを注入すると,微小管は4.2 µm/分で伸長し,微小管プラス端の典型的な伸長速度の範囲内であった.加えて,IT濃度を40 µMまで段階的に増加させ,2-3分後の微小管ネットワークを観察した.その結果,微小管プラス端と微小管内の取り込みのITの蛍光強度は,濃度に対応して増加し,20 µMを越えると強度が増加せずに飽和した.また,ITパッチの頻度も同様の傾向を示し20 µM以上で飽和したが,取り込まれた長さはIT濃度に依存せず差が生じなかった.

 また,マイクロパターンを用いて細胞形状を扇形に統一し,微小管ネットワークにおける微小管修復位置の空間分布を定量した.扇形細胞における微小管ネットワークは,細胞中心部,円弧領域で微小管密度が高く,アクチンストレス繊維付近で密度が低かった.微小管修復部位の局在評価のため,扇形細胞に赤色蛍光チューブリン二量体を注入し,観察した細胞全ての取り込み位置を重ね合わせ,取り込み位置の密度マップを作成した.この取り込み密度マップは細胞内の微小管密度と正確に一致しておらず,微小管ネットワークが密集している円弧領域ではチューブリン二量体の組み込みはほとんど無く,ストレス繊維近傍領域でより頻繁に観察された.この結果から,チューブリン二量体の取り込みは微小管ネットワーク全体に均等に分布していないことが明らかになった.

興味を持たれた方は唐原先生または玉置先生にご連絡ください.ZoomURLをお伝えします.栗田紘生