2023年度後期 第6回 細胞生物学セミナー
日時:12月5日(火) 16:00〜 場所:zoom
Transcriptomic analysis of the interaction between FLOWERING LOCUS T induction and photoperiodic signaling in response to spaceflight
Wang, L., Xie, J., Mou, C., Jiao, Y., Dou, Y., Zheng, H. (2021)
Front. Cell Dev. Biol. 2021 9 : 813246
宇宙飛行への応答における, FLOWERING LOCUS T遺伝子の誘導と
光周期シグナル伝達の相互作用のトランスクリプトーム解析
宇宙飛行は、高等植物の栄養生長期および生殖生長期の両方での生長と発達に影響を及ぼす可能性があることが知られている。しかし、宇宙での植物の栄養生長期に関する情報は多くある一方で、生殖生長期の植物への宇宙飛行の影響については比較的知られていない。さらに、これまでに異なる光周期が植物の生長に与える影響を比較する宇宙実験は行われておらず、光周期が宇宙での植物の生育にどのように影響するかも明らかになっていない。そこで本研究では、生殖生長期の植物の宇宙飛行に対しての応答および、その応答に光周期信号が与える影響を調査するために、シロイヌナズナArabidopsis thaliana (L.) Heynh.を用いた宇宙実験を行った。
本研究では、熱誘導性プロモーターによって制御され、花芽形成の制御遺伝子であるFLOWERING LOCUS Tと共にGFPタンパク質遺伝子を発現するトランスジェニックシロイヌナズナ株(FG)を作成し、これを用いて、宇宙飛行中に長日条件または短日条件での栽培実験を行った。長日植物であるシロイヌナズナを宇宙での短日条件下で栽培し、ヒートショック(HS)処理を行ったところ、FGにおいて、 同じ条件下での野生型シロイヌナズナと比較して、花芽の形成が促進され、花序茎の長さが短縮することが確認された。
次に、宇宙空間で長日・短日の日長条件で育てられた野生型およびFGの葉での遺伝子発現変化の全ゲノムマイクロアレイ解析を行った。宇宙飛行に応答する遺伝子のうち光周期に関連した遺伝子(dl-sp: daylength-related- spaceflight)を同定しその機能を調べたところ、それらの機能は主にタンパク質合成およびタンパク質の翻訳語修飾、特にタンパク質リン酸化に関与していることが明らかになった。さらに、dl-spで上方制御された遺伝子のうち高い比率で表れる遺伝子の1 kb上流配列で高い比率で表れるモチーフを探索したところ、上方制御された31の遺伝子で共通する4つのモチーフが同定された。このことから、光周期に関連する宇宙飛行への植物の適応には共通の制御因子が関与していることが示された。また、dl-spのうちFT発現によって制御される遺伝子の機能を調べたところ、それらは非生物刺激応答関連遺伝子や細胞代謝に関する遺伝子であることが明らかになった。このことから、HS処理によるFT発現は植物の宇宙飛行への応答を変化させ、その変化は非生物的刺激への感受性や細胞代謝プロセスの変化に起因する可能性が示唆された。
また、FTと相互作用する遺伝子のうち、光周期経路・概日経路を調節する遺伝子の発現レベルが地上のコントロールと比較して変化していることが確認された。さらに、宇宙飛行中に異なる光周期条件下で栽培された個体間には概日リズムの構成要素である遺伝子の発現の差異が確認できた。これらの結果から、宇宙飛行への応答においては概日時計が日長条件に依存して変化する可能性があり、この変化が宇宙での開花に干渉する可能性が示唆される。