2023年度後期 第1回 細胞生物学セミナー

日時：10月24日(火) 16:30〜 場所：zoom

Identification of the unique molecular framework of heterophylly
in the amphibious plant Callitriche palustris L.

Koga, H., Kojima, M., Takebayashi, Y., Sakakibara, H., Tsukaya, H. （2021）

Plant Cell 2021: 33: 3272–3292

水陸両生植物Callitriche palustris L.における異形葉性のユニークな分子構成の同定

異形葉性とは、一つの植物が環境条件によって異なる葉の形態を発達させることである。気中と水中の両方の条件下で成長できる水陸両生の水生植物で異形葉性がしばしば観察されるが、関連する発生メカニズムや分子基盤は未だ不明である。先行研究から、水生植物における異形葉性の分子基盤は種によって異なることが示唆されている。したがって、水生環境への植物の適応を解明するためには、多様な種を研究することが重要である。そこで、異形葉性の根底にある発生と分子メカニズムを明らかにするために、本研究では水生植物ミズハコベ（Callitriche palustris）における異形葉形成について解析した。

ミズハコベは、陸上条件下で卵形の葉を形成し、水中条件下でリボン状の葉を形成する。まず、形態学的解析を行った。ミズハコベの気中葉はジグソーパズルのような敷石細胞と丸い柵状細胞からなり、その柵状細胞の表層微小管配向は組織化されていなかった。それに対し、伸長した水中葉では、細胞が細長く伸長しており、柵状細胞の表層微小管が伸長軸に対して垂直に配向していることが明らかになった。

次に、ミズハコベにおける植物ホルモンの影響を調べるため、植物ホルモン攪乱実験を行った。エチレン感受を阻害するAgNO3処理、ジベレリン（GA）合成阻害剤であるウニコナゾールP、アブシジン酸（ABA）を加えると、水中葉の形成が阻害された。この結果から、GA、エチレン、ABAのすべてが水中葉の形成を制御していることが示唆された。また、気中葉にGAまたはエチレンを処理し、水中葉が形成されるか調べた。その結果、これらのホルモンを変化させただけでは、陸上条件下で水中葉の形成を誘導するには不十分であった。そのため、植物ホルモンのシグナル伝達が水中葉の形成の引き金となるためには、水中化に関連した付加的な要因が必要であると考えられた。

最後に、ミズハコベの気中葉と水中葉の間の発現差、植物ホルモンを処理した葉による遺伝子発現変化、近縁の陸上種であるCallitriche terrestrisとの比較も含めたトランスクリプトーム解析を行い、異形葉性を制御する250個の候補遺伝子を絞り込んだ。エチレン生合成遺伝子の一つは、気中葉と比べ、水中葉では発現が減少しており、エチレン生合成が抑制されていることが示唆された。GAについては、GA生合成活性化は検出されなかったが、GA不活性化に関連するいくつかのオーソログ遺伝子の発現が、水中条件下で上昇した。ミズハコベの水中葉に関しては、シロイヌナズナの転写因子遺伝子のオーソログであるSPEECHLESS、MUTE、FAMAの発現が、気中葉に比べて減少していた。これらの転写因子遺伝子は、単子葉植物やコケ植物など多くの陸上植物の気孔の発生に関与する。また、ネガティブレギュレーターであるOBP遺伝子のホモログであるOBP4L1とOBP4L2はともに水中葉で発現が減少し、GAシグナル制御下で細胞伸長を促進させるPRE遺伝子のホモログであるPRE1AとPRE1Bは水中葉原基で発現が上昇した。ミズハコベの水中葉は気孔が減少し、葉は細く伸長する特徴がある。これらの転写因子遺伝子がアワゴケ属の水中葉の発生に関与している可能性が高い。

これらの結果から、ミズハコベの異形葉性を制御する分子メカニズムは、植物ホルモンの変化や多様な転写因子遺伝子の発現と関連していることが示唆された。また、これまで研究されてきた水陸両生植物の異形葉性の制御メカニズムとの違いが示された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。ZoomのURLをお知らせします。成瀬真友香