2023年後期 第9回 細胞生物学セミナー
日時:12月19日(火)16:30〜 場所:Zoom
MOR1/MAP215 acts synergistically with
katanin to control cell division
and anisotropic cell elongation in Arabidopsis
Chen, Y., Liu, X., Zhang, W., Li, J., Liu, H., Yang, L., Lei, P., Zhang, H., Yu, F.
Plant Cell, 34(8), 3006-3027 (2022)
シロイヌナズナにおいてMOR1/MAP215はカタニンと相乗的に働き,細胞分裂と異方性細胞伸長を制御する
微小管は非常に動的な細胞骨格であり,細胞周期に応じて間期の表層微小管,分裂期の分裂準備帯(preprophase band: PPB)・紡錘体・フラグモプラストといった微小管構造体が連続的に形成される.表層微小管は配向パターンが細胞の異方的な成長と形態形成に重要な役割を果たす.また,PPBはG2期から前期にかけて核周囲の細胞表層に出現するリング状構造を形成し,将来の細胞分裂面の決定を担い,フラグモプラストは細胞質分裂において細胞板の形成と拡大に寄与する.このような微小管のダイナミクスは,多様な微小管関連タンパク質 (microtubule-associated protein: MAP)によって複雑に制御されており,微小管ポリメラーゼ/核形成因子のMAP215ファミリーと微小管切断酵素カタニンは真核生物間で広く保存されたMAPsである.シロイヌナズナのMAP215としてmicrotubule organization 1 (MOR1 )が同定されている.また,カタニンは微小管切断触媒サブユニットと調節サブユニットから構成されるが,KATANIN 1 (KTN1 )は微小管切断触媒サブユニットをコードする単一の遺伝子としてシロイヌナズナで同定されている.これらのMAPsは微小管ダイナミクスを調節する上で重要な役割を果たしているが,MOR1とKTN1が協調的にダイナミクス制御を行うかは不明である.そこで本研究では,シロイヌナズナのMOR1とKTN1について細胞成長と分裂,および微小管構造体における役割について調べた.
まず,MOR1とKTN1の相互作用を調べるために,mor1-10 ktn1-7二重変異体を作成し,野生型 (WT)およびmor1-10変異体またはktn1-7変異体と外部形態を比較した.その結果,一次根長はmor1-10とktn1-7はそれぞれWTと同程度か,WTの60%程度であったが,mor1-10 ktn1-7はWTの20%程度であった.また,暗黒化で生育した胚軸の成長もmor1-10 ktn1-7変異体は他系統と比較して有意に抑制された.さらに,子葉背軸側の表皮細胞ではWTではジグソーパズル状に敷き詰められた形態をしているが,mor1-10とktn1-7は凹凸が顕著でなく,mor1-10 ktn1-7ではほとんど凹凸が認識できなかった.このことからMOR1とKTN1は相乗的に相互作用し,植物の生長と細胞形態形成を制御していることが分かった.
次に,MOR1とKTN1の物理的な相互作用を調べるために,MOR1-mCherry, GFP-KTN1発現株を作出し,各微小管構造体におけるMOR1とKTN1の局在を観察した.その結果,PPBではMOR1とKTN1は明確に共局在し,フラグモプラストでは部分的に共局在した.また間期の細胞では,微小管プラス端を追従するMOR1が既存の微小管と交差した直後に,KTN1が交差部位に局在し,MOR1と一時的な局在の重なりを示した.加えて,二分子蛍光補完性 (BiFC)分析と共免疫沈降法を用いて,MOR1とKTN1が植物細胞内で物理的に直接相互作用していることを明らかにした.
さらに,mor1-10 ktn1-7,mor1-10,ktn1-7,WTの微小管可視化株を作出し,根端分裂組織で細胞分裂の異常を解析した.その結果,帯幅が不均一で非対称なPPBや湾曲したフラグモプラストといった異常な微小管構造体の形態が観察された.各系統で詳細な解析を行うと,WTとmor1-10は顕著な細胞分裂不全を示さなかったが,非対称なPPBの出現頻度はktn1-7で44.6%,mor1-10 ktn1-7で67.1%と二重変異体で著しく高くなり,フラグモプラストにおいても同様の傾向が見られた.このことから,MOR1はKTN1と相乗的に機能し,細胞分裂時のPPBとフラグモプラストの適切な形成に重要な役割を果たすことが明らかとなった.
興味を持たれた方は唐原先生または玉置先生にご連絡ください.ZoomのURLをお伝えします.栗田紘生