2024年度前期　第14回 細胞生物学セミナー

日時：７月23日（火）16:30~　場所：Zoom

A Positive Tropism of Rice Roots toward a Nutrient Source

Kiyoshi Yamazaki, Yoshihiro Ohmori, and Toru Fujiwara

栄養源に対する稲の根の正の屈性

植物の運動力について、1880年、チャールズとフランシス・ダーウィンは、著書『植物の運動力』の中で、植物が光、重力、および土壌水分に応答する行動を記述した。これらの植物の応答は、それぞれ向光性、向重力性、向水性として知られている。この三つの屈性により、植物は方向性のある刺激に応じて成長の方向を変えることができ、有利な条件を求めに行ったり、不利な条件を回避したりすることができる。今まではこの三つ屈性が考えられてきたが、本研究では第四の屈性として「向栄養性」を提示した。土壌中の栄養素は不均一に分布しているため、植物が根を栄養濃度が増加する方向に成長させることは有益であると考えられている。しかしこれまでこのような現象は実証されていない。よって、栄養勾配に応答した根の方向性成長について実証していく。

はじめに植物の根が栄養素に対する屈性を持っているかどうかを判断するためには、方向性のある刺激として栄養勾配を設定する必要がある。寒天培地で人工的に栄養勾配を作成する予備実験として、栄養素の代わりに染料を使用した。寒天ゲルを含むプラスチックチューブにブロモフェノールブルー染料を入れたものを使用し、このチューブを成長寒天培地に挿入して、チューブ内のゲルが外部の成長寒天培地と接触するようにした。その結果チューブの周りに放射状に染料の色のグラデーションが観察された。次に、この方法を用いて、必須の栄養素を含んだMurashige and Skoog (MS)培地を使用し、栄養勾配に対する側根の応答を調査した。その結果、約24時間後には側根の先端が栄養素のチューブの近くに集まることが観察された。この側根の応答は、試験した13本の植物すべてで見られた。しかし、主根の屈性に関する実験では側根の先端とは異なり、主根の先端は栄養勾配の方向に成長方向を変えることはなかった。次に、MS培地に含まれる化学成分が観察された根の屈性を誘導したことを明らかにするために、個々の成分が根の挙動に与える影響に関する実験を行った。側根の方向変化を定量的に評価するため、栄養チューブ挿入後0時間および24時間の側根の画像を取得し、根の成長方向の変化の程度を、角度比を用いて調べた。その結果、塩化アンモニウム（NH4Cl）のみ有意な角度比を示した。同様に亜硝酸や尿素など土壌中で植物が利用可能な主要な窒素態で検証したが、有意な角度比は示さなかった。

本研究で、植物の側根がNH4に対して正の屈性を示すことを実証した。これは植物の根が栄養素に向かって移動する能力を持っていることの最初の証拠である。

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中井康介