2024年度前期 第7回 細胞生物学セミナー
日時:5月28日(火)16:30~ 場所:Zoom
Amyloplast sedimentation
repolarizes LAZYs to achieve gravity sensing in plants.
Chen, J., Yu, R., Li, N., Deng, Z., Zhang, X., Zhao, Y., Qu,
C., Yuan, Y., Pan, Z., and Zhou, Y.
(2023), Cell, 186:, 4788–4802.
植物細胞におけるアミロプラストの沈降は、LAZYタンパク質を再分極させ重力感受を実現する
重力は、地球上の全ての生物に作用する重要な環境要因である。重力によって、植物の根の下向きの生長(正の重力屈性)および上向きの生長(負の重力屈性)が制御され、これらは乾燥耐性や栄養分の吸収などの農業形質を制御する可能性がある。1世紀以上前に「デンプン平衡石仮説」によって、根のコルメラ細胞におけるアミロプラストの沈降が重力感受を制御していることが提唱された。一般的に、アミロプラストの沈降は重力の感受段階であると考えられていたが、アミロプラスト沈殿の分子論的役割やシグナル伝達機構は、明らかにされていなかった。そこで我々の研究は、アミロプラストの沈降における分子論的役割を明らかにし、デンプン平衡石仮説における分子メカニズムに関する洞察を提供することを目的とした。
これまでに、多くの植物種においてLAZYと呼ばれる遺伝子が、茎および根における重力屈性反応に重要であることが証明されてきた。そこで、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のコロンビア(Col)株を用いて、LAZY2、LAZY3、LAZY4を欠損したlazy234三重変異体を作製し、白色光下および暗所において育てた結果、野生型に比べて、一次根および側根がランダムな方向に生長した。また、DR5rev::GFPが導入されたDR5rev::GFP/lazy234個体に、再配向による重力刺激を与えると、野生型に比べて、DR5v::GFPシグナルの重力刺激前と刺激後における分布の変化が失われた。lazy234変異体にLAZY2、3、4の各々のLAZY-GFP遺伝子を導入することで、3つのLAZYタンパク質は、コルメラ細胞およびコルメラ細胞内のアミロプラストの膜上に局在していることも明らかになった。一次根および側根の重力制御下でのLAZYタンパク質の再分布を調べると、90°再配向による重力刺激によって一次根のコルメラ細胞における3つ全てのLAZYタンパク質が再分極しより多くのタンパク質がコルメラ細胞の下側に蓄積した。また、最もアミロプラスト局在シグナルが強いLAZY3-GFPに着目して調べると、その重力刺激後のコルメラ細胞の下側への再分布が、アミロプラストの沈降と高い相関関係を示していた。さらに、LAZY3-GFPがアミロプラストに隣接したコルメラ細胞の細胞膜上にのみ局在していたことから、LAZYタンパク質がアミロプラストから隣接する細胞膜に移行する可能性が示された。重力刺激によるLAZYタンパク質の移行がどのように行われているかを解明するため、最も発現レベルの高いLAZY4-GFPに着目し,GFP抗体を用いた免疫沈降-質量分析(IP-MS)とホスホプロテオミクスにより調べると、重力刺激後にLAZY4タンパク質の特定の部位のリン酸化が、MKK5とMPK3の2つのリン酸化酵素により促進していることが分かった。そして、このLAZY4タンパク質のリン酸化が、先行研究により重力屈性のシグナル伝達に関わることが示唆されていたアミロプラスト外膜上のタンパク質TOC34,TOC120,TOC132とLAZY4の相互作用を増進させ、LAZY4タンパク質のアミロプラスト表面への移行を促進する可能性が示された。また、TOC120とTOC132の変異はLAZY4-GFPタンパク質のアミロプラスト上への局在と、細胞膜上への極性分布を阻害した。このようなLAZYタンパク質の極性分布によって、オーキシンの非対称な蓄積と屈曲生長が促進される。
本研究は、デンプン平衡石仮説における細胞小器官の運動によって引き起こされる分子極性形成の分子論的解釈を提供した。今後は、重力刺激によって引き起こされるMKK5-MPK3およびTOCタンパク質とLAZYタンパク質間の相互作用におけるメカニズム、アミロプラストと細胞膜の間においてのLAZYタンパク質の詳細な輸送プロセスについての研究が必要である。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。ZoomのURLをおしらせします。 田端桂介