2024年度後期 第11回 細胞生物学セミナー

日時:1217()1630~ 場所:Zoom

Co-action of COP1, SPA and cryptochrome in light signal transduction and photomorphogenesis of the moss Physcomitrium patens

Kreiss, M., H, Fabian., Hansen, M., Rensing, S., Hoecker, U. (2023)

Plant J., 114 : 159-175.

光シグナル伝達におけるCOP1SPAおよびクリプトクロムの共作用とヒメツリガネゴケの光形態形成

  水中から陸上への移行に付随して起こる植物体の複雑性の増加は、植物の成長と発達を周囲の光環境に適応させるための光シグナル伝達経路と相互接続された内因性の発達プログラムの進化を伴った。光合成生物は、赤色、遠赤色、青色、UV-Bの光を異なる光受容体のクラスを通して感知しており、PpCRY1aPpCRY1b 両方のクリプトクロム遺伝子を破壊したヒメツリガネゴケ変異体は、青色光下において、原糸体の分枝や葉の成長が減少するなどの複数の欠陥を示すが、受容体下流でのヒメツリガネゴケのシグナル伝達の事象は、あまり理解されていない。シロイヌナズナにおいては、フィトクロムとクリプトクロムは光形態形成における2つのリプレッサーであるPIFsCOP1/SPAユビキチンリガーゼのはたらきを抑制し、シロイヌナズナのCOP1/SPA複合体は、暗所で光シグナル伝達を抑制する。ヒメツリガネゴケは、2つのSPA様遺伝子(PpSPAaPpSPAb)9つのCOP1様遺伝子をもっているが、それらの機能は未だによく理解されていない。我々は先行研究において、PpSPAbPpCOP1aと相互作用し、COP1/SPA複合体はヒメツリガネゴケにおいても形成されることを示し、暗所で育ったPpspa_ab二重変異体は重力屈性の欠陥を示し、暗所においても成長を続けたのに対して、暗所において光によって調節される遺伝子は恒常的に発現していなかった。この結果は、暗所で恒常的に光形態形成を行うシロイヌナズナspaヌル変異体に対してヒメツリガネゴケspaヌル変異体が光応答の一部において欠陥がみられることを示している。このことから、シロイヌナズナにおけるAtCOP1/AtSPA相互作用と比較して、PpCOP1PpSPAsからより独立してはたらいているのではという疑問が生じた。そのためPpCOP1変異体を作製し、Ppspa_ab変異体とPpcop1a-i 変異体の表現型比較および光形態形成におけるクリプトクロムとPpCOP1/PpSPA間の物理的相互作用の機能と保存性を解析した。明条件で育ったPpcop1変異体とPpspa_ab二重変異体は、野生型に比べて有意に矮小化した茎葉体を発達させ、野生型と比較して茎葉体あたりの若葉の数が有意に少なく、成長や発達がゆっくりであった。また、いずれの変異体においても原糸体の側枝の長さが大幅に減少し、大部分が1つの細胞で構成され、Ppcop1_9x変異体は野生型と比較して有意に長い原糸体を示し、Ppspa_ab変異体においてはこの表現型が青色光下でのみ示された。次に、暗所で育ったヒメツリガネゴケにおけるPpcop1変異体の表現型を解析した結果、Ppcop1_9x変異体は、野生型とPpspa_ab変異体と比較してより大きく成長した。原糸体については両変異体の原糸体が重力ベクトルに対して非依存的に成長し、特にPpcop1_9x変異体における原糸体の長さは、野生型に比べて有意に減少していた。さらに、いずれの変異体も葉緑体を生成し、明所で育った原糸体と似た葉緑体を暗所で形成した。RNAシーケンスを行ったところ、暗所において野生型と比べて両方の変異体において245の遺伝子が異なる調節をされており、82% (200/245遺伝子)は野生型において光応答するもので、すべてがどちらの変異体においても上方制御され、PpCOP1遺伝子とPpSPA遺伝子が暗所において、光応答にかかわる遺伝子の発現を抑制することを示している。PpCOP1aPpSPAaPpCRYと相互作用するかどうかを調べると、青色光依存的にPpCOP1aPpSPAaPpCRY1bCCEドメインにおけるVPモチーフと相互作用することが示唆された。最後に、6つの光合成関連遺伝子についてのRT-qPCR解析を行うと、野生型に関しては転写が青色光下で顕著に促進され、Ppspa_ab変異体およびPpcop1_9x変異体でも同様であったが、暗所においては転写レベルが野生型に比べて変異体で有意に増した。このような結果からPpCOP1タンパク質とPpSPAタンパク質がヒメツリガネゴケの成長と発達の同時調節にはたらくことが示された。

興味を持たれた方は唐原先生または玉置先生にご連絡ください。ZoomURLをお伝えします。 田端桂介