2025 年度後期 第 13 回 細胞生物学セミナー
日時:12 月 9 日(火)16:00~ 場所:Teams
An ABCB transporter regulates anisotropic cell expansion via cuticle deposition
in the moss Physcomitrium patens
Zhang, L., Sasaki-Sekimoto, Y., Kosetsu, K., Aoyama, T., Murata, T., Kabeya, Y., Sato, Y., Koshimizu, S., Shimojima, M., Oha, H., Hasebe, M., Ishikawa, M. (2024)
New Phytol., 241: 665–675
ヒメツリガネゴケにおいてABCB輸送体はクチクラの蓄積を介して
細胞の異方成長を制御する
植物の発生には各細胞の成長方向と成長速度を制御することによって器官の形状を正確に制御することが必要である.多くの植物細胞は異方的に成長し,方向によって成長速度が異なる.この異方的な成長は適切な発生に極めて重要である.細胞の成長は主に細胞内部からの等方的な膨圧によって駆動されるが,堅い細胞壁によって制限されているため,細胞壁の力学的異方性が細胞成長の異方性を決定する.植物の細胞壁は多糖類から構成されており,この細胞壁多糖にはたらき,異方的な細胞成長を制御するメカニズムについては,これまでに広く研究されてきた.細胞壁における多糖類に加えて,陸上植物は非生物ストレスおよび生物ストレスから身を守るため,地上部組織および新しく形成される根端の細胞壁を覆う疎水性のクチクラ層を進化させてきた.植物のクチクラは主にクチンとワックスから構成され,植物クチクラは組織表面を覆い,細胞および組織の成長を機械的に制限する張力を受ける.この機械的制限は,成長する組織表面に新たなクチクラが継続的に蓄積することで緩和されるが,細胞や組織の成長に合わせて適切な時空間パターンでクチクラ物質を蓄積させる分子機構は依然として不明である.ATP Binding Cassette(ABC)輸送体は,真核生物において,膜を横断して基質を輸送する.特にG型(ABCG)輸送体はクチンモノマーやワックスを輸送する.これまで,ABC輸送体以外でクチクラ形成に関わる膜局在輸送体は報告されていない.一方で,B型(ABCB)輸送体の多くは植物においてオーキシン輸送体であることが知られている.シロイヌナズナのABCB14のように複数の基質(リンゴ酸の取り込みとオーキシン排出)を扱う例もあるが,ABCB14オーソログの植物系統を跨いだ機能は未解明である.そのため,本研究では,コケ植物ヒメツリガネゴケにおけるABCB14の機能を明らかにした.
ヒメツリガネゴケのPpABCB14欠損変異体ではクロロネマおよびカウロネマ細胞には影響がないものの,葉が縮んだ茎葉体を形成し,生殖器官も形成できなかった.そこで葉の発生時の機能に注目し,ネイティブ遺伝子座にmClover3をノックインし解析すると,pABCB14は葉頂端幹細胞の成長領域に局在していた.さらに,欠損変異体では葉頂端幹細胞の成長が乱れ,不規則な形状となったことから,PpABCB14 が異方性細胞成長に必須であることが示された.また,葉細胞でも成長に伴いシグナルが検出され,特に背軸側で強く,蛍光強度と細胞成長量には正の相関があった.クチクラ形成関連遺伝子HCTやPpCYP98の欠損変異体では縮れた葉が形成されることが知られ,Δppabcb14変異体はそれらの形態と類似していた.そこでPpABCB14がクチクラ形成に関与すると仮定し,トルイジンブルーを用いた葉の細胞壁透過性を調べたところ,変異体では野生型よりトルイジンブルー染色が強かった.脂溶性蛍光色素Fluorol Yellow 088による染色では,欠損変異体では蛍光強度が減少し,逆にβ-エストラジオール誘導株では増加していた.また,クチンモノマーおよびクチクラワックスの分析でも,多くの成分が欠損変異体で低下していた.このことから,PpABCB14はクチクラ脂質の蓄積に関与することが示された.
以上より,PpABCB14はクチクラの蓄積を介して細胞成長の異方性を制御していることが明らかになり,細胞壁多糖に作用する従来のメカニズムに加わる,新たな細胞成長制御機構が示された.
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