2026年度前期 第12回 細胞生物学セミナー

日時:721()1630~ 場所:Teams

Morphogenesis of moss leaf-like organs through variations in deeply shared developmental principles

Lin, W., Collet, L., Mancini, L., Deshpande, M., Lane, B., Lapointe, B. P., Bagniewska-Zadworna, A.,

Routier-Kierzkowska, A.-L., Smith, R. S., Coudert, Y., Kierzkowski, D. (2026)

 Sci. Adv., 12, 16, eaee6959

共有された発生原理の多様化によるコケ植物の葉状器官の形態形成

 

 葉は陸上植物において複数回独立に進化した光合成器官であり,コケ植物の配偶体世代では,葉に類似した葉状器官phyllidが収斂的に進化している.モデルコケ植物ヒメツリガネゴケのphyllidは,主に単一細胞層と中肋からなる単純な器官で,単一の始原細胞に由来する.これまでphyllidの発生は主に細胞系譜に依存すると考えられてきたが,細胞分裂が基部で長く持続することから,位置情報の関与も示唆されていた.一方,被子植物の葉では,細胞分裂,成長,分化の勾配と植物ホルモンであるオーキシンの動態が形態形成に重要である.そこで本研究では,タイムラプスイメージング,遺伝学的・薬理学的解析,計算モデリングを組み合わせ,ヒメツリガネゴケphyllidの時空間的な発生動態と,その制御におけるオーキシンの役割を解析した.

単一の始原細胞から成熟器官までの過程を56日間追跡した結果,phyllid形成開始時には,前駆細胞が左右交互に斜め分裂し,約10個のmerophyteを形成した.この初期過程は細胞系譜に依存していたが,その後の細胞分裂と成長はmerophyte境界には従わず,器官全体にわたる位置依存的な勾配を示した.形成開始後2.5日頃から細胞分裂は先端側で先に停止し,基部側でより長く維持された.続いて細胞成長にも基部側に偏った勾配が形成された.基部からの距離に応じて分裂・成長・分化を制御する2Dモデルは,実際のphyllid形態とmerophyte分布を再現し,位置情報が発生を制御することを支持した.次に,オーキシンの生合成の指標としてTRYPTOPHAN AMINO-TRANSFERASE A(TARA)および応答の指標としてR2D2レポーター(DII/mDII比を測定)を解析したところ,オーキシンは発生初期のphyllid先端部で産生され,その応答は基部側へ広がることが示された.本研究では,オーキシンは細胞分裂の停止を促し,細胞を伸長・分化へ移行させる因子としてはたらくことが示された.オーキシン排出輸送体の遺伝子PINAおよびPINBの発現領域も先端側から基部側へ拡大したため,当初はPINがオーキシンの基部方向への極性輸送を担うと予想された.しかし,pina pinb二重変異体では予想に反して細胞分裂が減少し,分裂領域が基部側へ縮小するとともに,phyllid全体でオーキシン応答が上昇した.さらに,発生初期ではPINの局在は明瞭な細胞基部方向への極性を示さず,一部は器官外側に面した膜に局在した.したがって,ヒメツリガネゴケのPINは長距離の極性オーキシン輸送を担うというより,オーキシンを細胞外へ排出して細胞内オーキシン濃度を低く保ち,細胞分裂から分化への移行を制御する役割をもつと考えられた.PIN欠損によるオーキシン応答の上昇は,細胞分裂停止の早期化と成長異方性の増加を引き起こし,細いphyllid形成につながった.さらに,外生オーキシンNAA処理では通常の基部方向への勾配が撹乱され,野生型ではPIN発現領域に近い中央部で分裂・成長が残った一方,pina pinb変異体では分裂がほぼ消失し,強い長軸方向への伸長によって棒状のphyllidが形成された

以上より,ヒメツリガネゴケのphyllidでは,形成開始時の細胞系譜依存的な制御から,その後の位置依存的な細胞分裂・成長・分化制御へ移行することが示された.オーキシンは細胞分裂を停止させ,細胞伸長・分化への移行を促す主要な位置情報としてはたらき,PINは細胞内オーキシン濃度を局所的に低下させることで,その作用を微調整する.この発生原理は,被子植物の葉とコケ植物のphyllidが独立に進化したにもかかわらず共有されており,平面的な葉状器官の収斂進化には,細胞分裂から分化への移行と位置情報による制御という深く共有された発生原理が繰り返し利用された可能性が示唆された.

 

興味を持たれた方は唐原先生または玉置先生にご連絡ください.Teams URL をお伝えします.田端桂介